親権
親権とは
未成年の子をもつ夫婦が離婚するためには、夫婦の一方を親権者として指定することが必要となります。親権者とは、未成年の子どもを保護・養育し、子どもの財産を代わりに管理する親のことです。
具体的には、身上監護権(子どもの身のまわりの世話や、しつけ、教育をすること)と財産管理権(子ども名義の預貯金などの財産を管理すること)、そして法定代理権(子どもが何らかの契約の当事者となる場合、子を代理して契約を締結すること)という3つの権利・義務を負う親が、親権者です。
親権者を誰にするのか(親権者の決定・指定)
未成年の子供がいる場合、離婚後の親権者を夫婦のどちらにするか決めなければ離婚はできません。
これは、離婚した場合、どちらかの単独親権となるためです。離婚だけを行い、子の親権者の決定・指定は後で決めることはできないのです。
夫婦間の合意で親権者を指定できないときは、協議離婚の届出ができないので、調停や裁判等で親権者を定めることになります。
ここで大切なことは、子どもの生活・福祉を考えて決めることです。親のエゴや離婚の際の意地の張合いなどで決めるものではないということを念頭においといてください。
調停や裁判における親権者を定める基準
一般に、親権者の指定において、考慮すべき具体的事情としては、父母の側では、監護に対する意欲と能力、健康状態、経済的・精神的家庭環境、居住・教育環境、子に対する愛情の程度、実家の資産、親族・有人島の援助の可能性などであり、子どもの側では、年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況、子ども本人の意向などがあげられています。
そして、実際の裁判では、次の諸原則が重視されて親権者が指定されています。
①監護の継続性(現状尊重)の原則
継続性の原則とは、子どもの現在の生活環境に特段問題がないのであれば、現状を尊重し、生活環境を急激に変化させないようにしようという考えです。
この原則は、現実に形成されている親子の心理的な結びつきを重視するもので、子どもの養育者を変更することは、子どもへの心理的不安定をもたらす危険があるということを根拠においています。
②母性優先の原則
母性優先の原則とは、これまで主として監護してきた方(母親的な役割を果たしてきた方)が親権者として優位性があるという考え方です。したがって、父親であっても、これまで育児に積極的に関わっていたのであれば、親権者となれるチャンスがあるのです。
この原則が「女性」という言葉ではなく「母性」という言葉が使われているのは性別が関係ないということを表しています。
主たる監護者であったか否かについては、例えば、これまで子どもの食事を作ったり、食べさせていたのは誰か、入浴はどちらが行なっていたか、遊んでいたのは誰か、学校の送り迎えは誰が行なっていたか、寝かしつけていたのは誰か、家庭内でのしつけを行なっていたのは誰かなどを総合的に考慮し、判断します。
日本では通常、父親がメインで働いて収入を得る役割で、母親は子どもが小さいうちは専業主婦として、若しくは短時間労働程度で子育ての役割に徹しています。したがって、多くの場合、女性が有利となります。
しかし、最近は父母が同じくらい働き、若しくは母親がメインで働く家庭も増えていますので、父親が主たる監護者である場合も見られます。
③子どもの意志尊重の原則
子どもが15歳以上の場合、裁判所は、親権者を指定するにあたって、子ども本人の意向を聴かなければなりません。したがって、当然、子どもの意向は尊重されなければなりません。
また、子どもが15歳未満の場合でも、裁判実務は子どもの意向を重視しています。もっとも、子どもが幼い場合、多くの事案では子どもは父母の両方が大好きであり、どっちについて行きたいかを選ぶことなどできません。
仮に、どちらかを選べたとしても、幼い子どもは身近にいる者の影響を受けやすく、また、言葉と真意が一致していない場合もあります。そこで、幼い子どもの親権をめぐる紛争では、家庭裁判所調査官が子どもと面談する等して、子どもの発達段階に応じた評価を行なっています。この調査官という人たちは、家庭裁判所の職員であり、児童心理等の専門家です。
④きょうだい(兄弟姉妹)不分離の原則
きょうだいはできるだけ分離すべきではないという原則です。これはきょうだいは、一緒に生活した方が情緒が安定する、人格形成にも役立つ、といったことを根拠とする考えです。しかし、この原則は形式的に適用すべきではないと考えられます。
例えば、ある夫婦が2年前から別居しており、兄(7歳)は父親と同居し、父親が主として監護しており、弟(2歳)はまだ乳幼児であるため、母と同居し、母が主として監護しているケースを想定しましょう。この場合、弟は乳幼児であるから母が親権者としてふさわしいと判断した場合、兄についても、この原則を重視すると、母が親権者と判断されます。
もっとも、兄と弟の同居期間が短いような場合、そもそもきょうだいの結びつきが弱いといえます。そのような場合、子どもの意向を重視して、兄の親権を父親に認めることも十分考えられます。
⑤有責性が考慮されるか?
例えば、妻の不貞行為が原因で離婚しなければならなくなった場合、妻を親権者としてよいかという問題があります。このような場合に妻が親権者となることに対して、夫としては、裏切られたあげく、子どもまで取られてしまうという結果に納得できるものではありません。
しかしながら、裁判実務上、相手の有責性と親権者の判断は別物と考えられています。したがって、妻の不貞行為を理由に親権者としてふさわしくないという主張は基本的には認められません。
もっとも、不貞行為が子どもの監護にも害をもたらしていたような場合は、そのことをもって親権者としてふさわしくないという主張は可能です。例えば、妻が育児を放棄して、不貞行為の相手と合うなどしていたような場合です。
離婚後の子供との関係・間柄
子どもを離婚後も夫婦の共同親権とすることはできません。
必ず夫婦の一方が親権者となります。
また、子どもが数人いる時は、それぞれの子について親権を決めなければなりません。
夫と妻に分けることもできます。
親権者の記入には最新の注意が必要です
離婚届を受け付けてもらいたいがために、とりあえずどちらかを親権者として記入しておいて、離婚が成立してからあらためて話し合おうと思っても、親権者は離婚届に記載した通りに戸籍に記入されてしまいます。
後で変更するつもりだったとしても、親権者の変更は家庭裁判所の許可が必要ですから、簡単に変更できるものではありません。
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