相手が無職の場合、私がもらえる婚姻費用はゼロになるのでしょうか?
結論からいうと、かならずしもそうとはいえません。
たしかに、義務者が無職の場合には、原則として、収入は「0」として扱います。
もっとも、潜在的な稼働能力がある場合には、収入が一定程度あるものとして算出することになります。
具体的には権利者については100万円程度とされることが多いようです。
この場合、厚生労働省統計情報部が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の結果をまとめた賃金センサスで推計する場合もあります。
もっとも、この場合でも資格を有していたり、定職について働いていた経験があるなどしてすぐに定職に就くことができる場合と、すぐに定職に就くことができない場合とで、賃金センサスの適用の区分が異なることには注意が必要です。
後者の場合には、短時間労働者の性別・年齢別の年間収入によって収入を推計します。
ただし、権利者が小さい子どもを育てている、子どもや家族が重大な病気にかかっており看病のために働くことが現実的に困難な状態ある場合などには、潜在的な稼働能力があるとはみることができないでしょう。
このことは、義務者が働くことができるにもかかわらず働く意欲がなく、働かない場合も同様です。
無職で収入がない人の収入を推計する場合の方法は、義務者の年齢や、それまでの就労歴及び収入、現在の健康状態等によって判断することになりますが、義務者から、現在の生活の状況を経済面を含めて聞き、ハローワークに行っているか否か、身体的精神的な体調の具合がどうかなどについて具体的に聞くことで、稼働意欲などを含めた潜在的な稼働能力の有無が判断しやすくなります。
では、義務者が生活保護を受給している場合はどうでしょうか。
この場合には、義務者は婚姻費用の分担義務を負いません。
なぜなら、生活保護は、生活保護は、困窮した人が利用できる資産、能力その他あらゆるものを活用しても最低限度の生活ができない場合に受給できるものだからです。
次に、義務者が失業保険を受給している場合にはどうでしょうか。
この場合には義務者は婚姻費用の分担義務を負います。
これは、失業保険は、失業中の生活を心配せずに、新しい仕事を探し、1日でも早く再就職するのを支援するために支給されるもので、生活保護のように、国が最低限度の生活を保障する制度とは異なるからです。
相手が無職の場合の婚姻費用の問題点
相手が無職の場合の婚姻費用では共通して見られる問題点の傾向があります。
以下、紹介しますので、ご参考にされてください。
婚姻費用の適正額を判断するのが難しい
婚姻費用は、基本的には夫婦双方の年収をもとに判断されます。
年収というと、一見簡単そうですが、給与所得者の場合は、税込みの年収を正確に調査しなければなりません。
そのためには源泉徴収票や所得証明書で確認する必要があります。
また、自営業者の場合は確定申告書を確認する必要があります。
確定申告書のどこを確認すべきか、離婚専門の弁護士でなければ判断が難しいと考えられます。
特に、本事案のように、相手方が無職となった場合、形式論では年収ゼロですが、本当にゼロと評価すべきかという実質論で判断すべきです。
このような判断は婚姻費用についての専門的知識や経験がないと難しいといえます。
保育料等を減免していない
子どもを保育園や幼稚園に通わせている場合、高額な利用料金を支払われている方が多いと思います。
これは、保育料等の算定において、相手方の前年の所得を考慮して算定しているからです。
離婚すると、保育料等は、基本的に相手方の所得は考慮されません。
したがって、離婚すると、通常保育料等は減免されます。
また、ケースによっては離婚成立前でも保育料等の減免が可能です。
例えば、当事者が別居後に弁護士が代理人となって相手方と離婚を協議しているような場合、保育料等が減免できる場合があります。
この保育料の減免は、役場では教えてくれないことが通常のため、弁護士から積極的に働きかける必要があります。
特に、本事案のように、相手方が無職で婚姻費用も期待できないようなケースでは、少しでも生活を楽にするために、保育料等の減免の可能性について、一度当事務所までご相談されることをお勧めします。
児童手当を請求しない
児童手当は、子どもを現実に監護している方が受け取るべき給付金です。
しかし、別居しているのに、児童手当をもらっていない方がとても多い状況です。
児童手当を相手方に請求したり、場合によっては受給権者の変更が可能です。
このような公的給付については、離婚専門の弁護士へ相談されることをお勧めしています。
婚姻費用の請求についてはこちらもごらんください。