不倫の慰謝料請求で判決前の財産隠しは防げますか?
妻の不貞相手に慰謝料請求訴訟を提起する予定です。
不貞相手に資産があることはわかっていますが、訴訟を提起した場合、財産を隠すなどしてお金がないように装う可能性があります。
不貞相手が財産を隠すことを防ぐ方法はないのでしょうか。
民事保全法の債権仮差押命令の申立てが考えられます。
民事保全法の債権仮差押命令とは
配偶者に不貞され、不貞相手や配偶者に対して不貞慰謝料請求訴訟を提起した場合であっても、不貞の事実が認められて慰謝料が定まる判決を得るまでに被告(不貞相手や配偶者)が財産を隠したり、使ってしまったら、勝訴判決を得たとしても慰謝料を回収することはできず、絵に描いた餅になってしまいます。
不貞慰謝料請求訴訟は約半年から1年くらいの期間を要します。
もともと不貞をした配偶者や不貞相手に財産があったとしても、訴訟をしている間に財産を他人名義にされて隠されたり、消費されてしまうと、いざ判決が出て任意的に慰謝料が支払われないからといって強制執行をしようとしても、空振りに終わります。
そこで、被告(不貞相手や配偶者)の財産を隠したり、浪費されないようにするために、あらかじめ被告の財産を処分できないように確保しておくための方法が民事保全の手続です。
民事保全とは、訴訟で請求している債権(権利)が確定し、それを実現(回収)するための本来的な手続の存在を前提としつつ、現状と将来の権利確定・実現のタイムラグを埋めるための手続です。
上述のように、被告(債務者、ここでは不貞相手や配偶者)が資産を隠匿したり、浪費してしまうことにより債権を回収できなくなるという不都合を回避することを目的としています。
民事保全の種類と特徴
民事保全には、大きく分けると仮差押え、係争物に関する仮処分、仮の地位を定める仮処分の三種類があります。
仮差押えは金銭債権の保全を目的とするのに対し、仮処分は金銭債権以外の権利や権利関係の保全を目的としています。
不貞慰謝料請求債権は金銭債権ですので、不貞慰謝料請求債権を保全したい場合には仮差押えの手続をとることになります。
仮差押えは、将来、強制執行をするときまで暫定的に現状を固定して強制執行の実効性を確保するために行われます。
保全する財産の種類によって、動産仮差押え、動産仮差押え、債権仮差押えの3種類に分かれています。
民事保全(債権仮差押え)の手続は、判決とそれに基づく強制執行を暫定的に先取りして行う構造であり、以下の特徴があります。
- 暫定性
将来の執行を保全するための当面の現状維持や、権利関係確定までの応急措置。 - 従属性
本案訴訟による権利確定を前提とする従属性。 - 緊急性
仮差押えや係争物仮処分では保全執行までに財産を処分されてしまえば意味がなくなりますので、迅速に手続を進める必要性。 - 密行性
民事保全の申し立てを債務者に知られてしまって、財産の隠匿、現状を変更されては意味がないため、債務者に知られないように手続を進める必要性。
これらの特徴の現れとして、民事保全は権利関係を確定する訴訟手続に比べると簡易的かつ迅速、一方当事者(債権者)の言い分だけで進めることができます。
- 被保全権利(民事保全をすることにより権利者が保全したい権利関係)の存在
- 保全の必要性(債務者に財産がないことや隠匿・消費などのおそれがあるなどの具体的な事情)
また、上記の理由を満たしたとしても、裁判所が決定した担保金を確保し、供託をしなければ民事保全をすることができません。
債権仮差押命令についてのポイント
不貞の被害者となってしまい、不貞相手や配偶者に対して慰謝料請求をしたものの、訴訟中に不貞相手や配偶者が財産を隠匿したり、浪費したりする可能性が高い場合、民事保全の手段は債権の回収手段の一環として有効です。
もっとも、民事保全をした時点ですでに財産がなくなってしまった場合にはこの手続きによっても空振りになることがありますし、担保金が準備できなければ、そもそも民事保全ができないということもあります。
また、訴訟中に和解の方向で進行している場合などは、民事保全をすることで却って紛争が激化し、双方が納得しかかっている和解案も決裂してしまうこともあります。
そのため、民事保全の手続を使って慰謝料債権を確保すべきか否かについては、専門家に相談の上、慎重に判断すべきでしょう。