離婚の際、相手方の連れ子との養子縁組は解消できますか?
私は、結婚をした際、相手方の連れ子と養子縁組をしました。
しかし、現在、相手方とは離婚が成立する見込みになっており、子どもは、相手方が引き取る予定です。
そこで、私としては、離婚した後は、相手方の連れ子との養子縁組は解消したいという希望があります。
しかし、相手方は、離縁届は出さないと言っています。
このような場合、私は離縁ができないのでしょうか?
相手方が離縁に反対している場合、養子縁組をした連れ子とは当然に離縁できるわけではありません。
しかし、このような場合、離縁をして親子関係を解消するのが、多くの場合、自然といえば自然です。
したがって、①協議離縁、②調停離縁、③裁判離縁といった手続きを段階的に行って、相手方と交渉することにより、離縁を目指していくことになります。
その際、弁護士の交渉ノウハウを用いれば、離縁の確率は高くなるといえるでしょう。
離婚の際、養子縁組をした連れ子とは、当然に離縁できるわけではない!
連れ子との親子関係が継続することのメリット・デメリット
結婚をする際に、相手方の連れ子(以下、本稿では、単に「お子さん」といいます。)と養子縁組をすると、後になって離婚が成立した場合でも、自動的にそのお子さんとの養子縁組が解消されるわけではありません。
したがって、離縁が成立しない限り、そのままにしておくと、あなたとお子さんとの親子関係は継続します。
離婚後もお子さんとの親子関係が継続することについては、主に経済的にみたときに、次に説明するようなメリットとデメリットの両面があります。
もちろん、身分関係、親子関係、愛情関係は、経済的な利益判断によってのみ成り立つものではないことはいうまでもありません。
しかし、関係性に経済的な持続可能性が見込めない場合には、かえって、お互いの不幸につながる場合もありますので、冷静な判断が必要な場合もあるでしょう。
このような観点からみたとき、まず、あなたにとって、お子さんとの親子関係を継続することのメリットは、以下の2点が主なものでしょう。
民法877条1項は、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と定めていますから、親子関係が継続する限り、直系血族にあたるお子さんに、将来、あなたの扶養を求めることができます。
相手方がこれを拒否する場合、面会交流調停の申立てなどにより、面会交流を実現していくことになります。
他方、お子さんとの親子関係を継続することのデメリットは、以下の2点が主なものでしょう。
この観点から、相手方の連れ子とは離縁をして親子関係を解消し、養育費支払い義務から免れたい、とお考えになる方が多いと思われます。
離縁をするためには?
そこで、あなたとして、例えば養育費の負担から免れたいと考えれば、お子さんとの養子縁組を解消するため、離縁の手続きをする必要があります。
しかし、相手方が離縁を拒否している場合、ケースにもよりますが、離縁はそう簡単ではないことは、覚悟していただく必要があります。
このような場合に離縁をするためには、次に説明するとおり、①協議離縁、②調停離縁、③裁判離縁といった手続きを段階的に行って、粘り強く離縁の成立を目指していくことが必要となります。
離縁の具体的方法と、離縁を目指した適切な手続きの進め方は?
協議離縁とは、当事者間の協議によって離縁を合意し、任意に役所に養子離縁届を提出することによって、離縁が成立することです。
この場合、協議の相手は、お子さんが15歳未満の場合は、「養子が十五歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする。」と定める民法811条2項に基づき、あなたの(元)配偶者となります。
また、お子さんが15歳以上の場合は、そのお子さんと直接協議をすることになります。
協議の進め方としては、一例ですが、離縁をした方が相手方にとってもかえってメリットとなることを強調して、離縁に応じてもらうように交渉していくことになるでしょう。
具体的には、親子関係が継続した場合、以下のようなことを話し説得することになるでしょう。
- 将来のあなたの扶養義務がお子さんに残ることは、相手方やお子さんにとってデメリットともいいうることを説明する
- お子さんに相続権が残る場合、場合によっては、あなたの多額の借金などの負の財産を相続してしまう可能性もあることを説明する
- 養育費として一定額をまとめて払うことを提示することによって、早期の離縁に応じてもらう
- 裁判上の離縁原因(以下に説明)がある場合には、裁判になった際に相手方の意思にかかわらず離縁ができるので、裁判の時間的・経済的・精神的負担を払うよりは、早期に協議離縁をした方がお互いのメリットになることを説明する
ただし、離婚や離縁の協議の場合、当事者間で話すとお互いに感情的になってしまい、そもそも冷静な話し合い自体が困難であることも多いでしょう。
このような場合、第三者として弁護士が間に入って、冷静に、そして上記のような交渉ノウハウを用いて交渉をすることによって、離縁ができる確率が格段に高くなります。
協議ではなかなか離縁の合意が難しい場合、家庭裁判所に離縁調停を申し立てて、家庭裁判所で調停委員会を介して話し合いを続けていくことになります。
離縁調停は、話し合いの手続きであるという意味では協議の場合と同じであり、強制的に離縁ができる手続きではありません。
したがって、進め方としても、協議の場合と基本的に同様となりますが、間に調停委員を挟んでいるという違いがあり、こちらの主張に分があると思ってもらえれば、調停委員から相手方を説得してもらえる可能性があります。
そして、離縁調停において離縁に合意できれば、離縁をする旨の調停調書が成立し、調停調書謄本を交付してもらえます。
その後、調停の成立から10日以内に、調停調書謄本を添えて、養子離縁届を役所に提出することで、手続きが完了します。
離縁調停でも離縁が成立しなかった場合、さらに、家庭裁判所に離縁訴訟を提起して、裁判によって離縁判決をもらうことを目指します。
裁判上の離縁原因とは?
法律上、裁判上の離縁が認められるのは、以下の3つの場合に限定されています。
- 他の一方から悪意で遺棄されたとき
- 他の一方の生死が三年以上明らかでないとき
- その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき
(民法814条1項)
したがって、上記のいずれかに該当する事実がないと、裁判上、強制的に離縁することはできません。
今回のように、離婚に際して連れ子の養子縁組を解消したいという場合には、3.「その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかどうかが、特に問題となるでしょう。
ここで「縁組を継続し難い重大な事由があるとき」とは、裁判例上、「養親子としての生活関係を維持することができず、その回復が著しく困難な程度に破綻したとみられる事由があるとき」とされています(名古屋高裁平成14年9月25日判決)。
裁判上の離縁原因を具体例で説明
それでは、具体的に、相手方の連れ子と養子縁組をしたがその後離婚をしたという事実そのものが、上記の場合にあたるといえるでしょうか。
この点に関しては、ケースバイケースであり、具体的事案に応じて裁判上の離縁が認められるのか、専門的判断が必要になります。
そこで、少しでもイメージを持っていただくため、具体的な裁判例をもとに、説明してみます。
まず、今回のような事案とは少し事情が違いますが、1つ目の裁判例です。
判例 裁判上の離縁が認められなかった例
原告の子(妻)と被告(夫)が結婚し、婿養子に入ったが(すなわち、被告(夫)が、妻の親である原告と養子縁組をして養子となった)、その後、原告の子と被告が離婚をしたため、原告が被告に対し離縁訴訟を提起した事案があります。
この事案において、神戸地方裁判所は、「被告が原告の実子…と離婚している事実は新民法第八一四條第三号にいわゆる縁組を継続し難い重大な事由ある場合に該当しない」と判断しました。
神戸地裁 昭和25年11月6日判決
妻の家に婿養子に入ったのに、その後妻と離婚をしても、妻の親との親子関係は切れないというわけですから、離縁をしたい夫からみれば厳しい判断であるといえるでしょう。
次に、2つ目の裁判例です。
判例 裁判上の離縁が認められた例
事案は、原告(妻)が、被告(夫)と結婚し、同時に夫の連れ子2人と養子縁組をしたが、その後、被告(夫)が暴力を振るうようになったため、原告が、被告(夫)との離婚と、連れ子2人との離縁を求めて訴訟を提起した、というものです。
この事案において、京都地方裁判所は、「原告と〔被告(夫)の2名の連れ子(いずれも被告の実子)〕間の本件養子縁組は、原告と〔被告(夫)〕間の婚姻生活の円満を目的としてなされたことが認められ、原告と〔被告(夫)〕間の婚姻は、前記認定のとおりの事情で、婚姻を継続し難い重大な事由があるときに該当するから、原告と〔被告(夫)の2名の連れ子〕間の縁組も、縁組を継続し難い重大なる事由あるときに該当すると解するのが相当である。」(注:〔〕内は筆者補充)と判断しています(京都地裁昭和39年6月26日判決)。
神戸地裁 昭和25年11月6日判決
つまり、夫婦間において、裁判上の離婚原因として、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)がある場合には、連れ子との間でも、「縁組を継続し難い重大な事由があるとき」に該当し、裁判離縁が認められる、という判断です。
離婚をすれば連れ子と裁判離縁できるかどうかは、そう簡単な判断ではない!
以上のとおり、相手方の連れ子と養子縁組をしたが、その後離婚をしたという場合に裁判離縁が認められるかどうかは、結局、ケースバイケースであり、具体的事案に応じて裁判上の離縁が認められるのか、専門的判断が必要になります。
少なくとも、単純に離婚をしたというだけでは、離縁ができるわけではないため、簡単な判断でないことはお分かりいただけるでしょう。
まとめ
このように、相手方の連れ子と養子縁組をした場合、離婚に際して養子縁組を解消するためには、様々な手続きを取る必要があり、そこにおいては、法的専門知識や交渉ノウハウが必要となってきます。
当事務所には、離婚や離縁の手続きに詳しい弁護士が多数所属しておりますので、ご不安なことがあれば、何なりとお気軽にご相談いただければと思います。
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