相手が経営している会社の資産も財産分与の対象となりますか?
原則としては財産分与の対象とはなりません。
弁護士が詳しく解説していきます。
場合によっては財産分与の対象となる?
会社の財産は、相手とは別人格の財産となり、基本的には財産分与の対象とできません。
しかし、零細企業のような場合、相手の一人会社で、相手の財産と会社の財産が混同している場合もあります。
たとえば、会社名義のベンツを私用でも使っている場合、会社名義の預金が夫婦間の生活費の支出と一体になっている場合などです。
過去の裁判例では以下のようなものがあります。
- 夫と妻は、婚姻後、二人で出資して有限会社を設立した。
- 夫と妻は、互いの個人名義と会社名義で3筆の土地を購入し、この土地上に夫婦名義で建物を建築した。
- 夫は、会社名義で妻に対する婚姻費用の支払いをしていた。
上記のような事情の下で、妻側は、夫に対し、会社名義の財産も財産分与に含めるべきとの主張をしました。
裁判所は,結論として、会社名義の資産、負債も通算して財産分与すべきとの判断をしました。
上記のケースでは、
- ① 会社の出資者が夫婦のみの小規模会社であったこと
- ② 会社名義で婚姻費用の支払いが容認されている背景には、この会社が個人経営の色彩が強い状況にあったこと
- ③ 夫婦と会社名義の土地上に夫婦名義の建物があったことから、夫婦の財産と会社の財産の区別が曖昧になり、むしろ一体になっていると評価されること
という状況であったため、会社財産自体を分与対象に含める判断をしたものと考えられます。
ただし、会社の規模が婚姻後にどんどんと大きくなり、個人経営的色彩が少なくなってくれば、もはや個人と会社は別人格であるという評価を受けやすくなりますので、その場合は会社財産を財産分与の対象とすることは難しくなると考えられます。
評価の分かれ目
また、会社財産が分与対象となり得る場合があるとしても、その財産が婚姻前に形成されたものであるのか、婚姻後に形成されたものであるかも評価の分かれ目となります。
たとえば、会社の株式を夫が個人で保有しているという場合、この株式が婚姻前から形成されていたものであれば、それは夫婦で築いた財産ではありませんので、分与の対象とはなりません。
一方で、婚姻後に夫が増資を行い、その分株式数が増えたということであれば、この増資分については、夫婦で協働した結果といえるので、財産分与の対象と考えることができます。
このように、会社財産が財産分与の対象となるのはあくまで例外ではありますが、
- ① 会社そのものが、一方配偶者の個人経営的色彩が強いものであるかどうか
- ② 会社財産が形成されたのが、婚姻前なのか、婚姻後なのか
を目安として検討してみることが必要です。
なお、財産分与の支払いを免れるため、夫婦で築いた財産が会社名義として形成されているという実体がある場合、その立証は容易ではありません。慎重に資料の検討をする必要があります。
また、婚姻前の株式自体が財産分与の対象外であったとしても、夫が会社貸付金債権名目で会社に対する権利を保有している場合は、その債権自体が財産分与の対象になると裁判所は考えています。