清算条項があっても後から養育費を請求できますか?【弁護士が解説】

執筆者 弁護士 宮崎晃
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
離婚分野に注力し、事務所全体の離婚・男女問題の問合せ件数は累計1万件超え。

清算条項についての相談です。

先日、離婚協議書(または離婚公正証書や離婚調停の調停調書)を作って離婚をしました。

子どもは、私が引き取って育てています。

しかし、私は、相手のDV・モラハラから逃れるために、一刻も早く離婚がしたかったため、養育費については何も定めなかったうえ、最後に、「当事者双方は、以上を以って、本件に関する一切を解決したものとし、今後、名目の如何を問わず、互いに金銭その他の請求をしない。」との清算条項がある内容で合意して、書面を作ってしまいました。

この清算条項の文言からすると、私は、今後、もう養育費を相手方に請求することはできないように思います。

悔しいですが、何とかならないでしょうか。

離婚協議書(または離婚公正証書や離婚調停の調停調書)を作成した場合において、養育費を支払う内容の条項がないまま清算条項を定めた場合でも、後から養育費の請求をすることは、原則として可能です。

 

清算条項とは

離婚条件について合意した結果を、離婚協議書、離婚公正証書、または離婚調停の調停調書にまとめる場合、紛争の蒸し返しを防ぐ目的で、清算条項を設けることが一般的です。

用語の解説
清算条項とは
具体的には、「当事者双方は、以上を以って、本件に関する一切を解決したものとし、今後、財産分与、慰謝料等、名目の如何を問わず、互いに金銭その他の請求をしない。」であるとか、「当事者双方は、本協議書(公正証書)に定めるもののほか、他に何らの債権債務のないことを相互に確認する。」といった文言の条項です。
その法的効果としては、その内容のとおり、協議書や公正証書、調停調書に定める条項以外に、今後、お互いに金銭等の請求ができなくなる、すなわち、請求権の放棄、という強い効果があるものになります。

弁護士このような清算条項があると、以降、慰謝料や財産分与を求めるために、調停・審判の申立てや、訴訟の提起を行っても、あなたの訴えは認められないことになってしまいます。

そのため、そもそも、清算条項を定める場合には、後から金銭その他の請求が一切できなくなっても後悔しないのかどうか、慎重に判断して合意する必要があります。

しかし、養育費については、あきらめないでください。

次に説明するとおり、養育費については話が違います。

 

 

清算条項を定めた場合でも、後から養育費の請求をすることはできる!

離婚後の子どもの養育費の法的根拠は、「父母が協議上の離婚をするときは、…子の監護に要する費用の分担…は、その協議で定める。」と規定する民法766条1項や、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と規定する民法877条1項に根拠があります。

そして、養育費を、子どもの別居親に対する扶養請求権と考えると、民法881条は、「扶養を受ける権利は、処分することができない。」として、扶養請求権の処分の禁止を規定していますから、夫婦が清算条項によって、子どもの別居親に対する扶養請求権を放棄したとしても、上記規定に基づいて、その合意は無効であることになるわけです。

簡単にいえば、養育費は子どもの大事な権利ですから、親権者であってもこれを放棄をすることができない法律関係になっている、ということです。

したがって、離婚協議書や離婚公正証書において、養育費についての条項がないまま清算条項を定めた場合でも、後から改めて養育費を請求することは可能である、ということになります。

実際にも、家庭裁判所においても、清算条項がある場合でも子どもの扶養請求を認めた審判例が存在します(東京家審昭和33年5月23日、札幌高決昭和43年12月19日など)。

 

 

調停調書で清算条項を定めた場合でも、後から養育費の請求をすることはできる!

書類と印鑑なお、上記は、当事者間で離婚協議書や離婚公正証書を作成した場合を想定して説明してきましたが、家庭裁判所での離婚調停の調停調書において、養育費についての条項を定めないまま、清算条項がある内容で合意して調書が成立した場合でも、上記と同様の考え方で、後から改めて養育費を請求することはできますので、あきらめないでください。

ただし、調停になっている場合は、いずれにしても、調書が成立するまで半年や1年程度の期間がかかります。

したがって、成立後に改めて養育費を請求する労力を払うよりは、調停の手続きの中で養育費についてじっくり話し合い、養育費の額や支払方法について納得できる条件で合意して、養育費を支払う内容の条項を定めるべきことは、いうまでもありません。

▼離婚後の養育費請求について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

まとめ

このように、離婚協議書、離婚公正証書または調停調書を作成する場合には、以下の点などに注意すべきです。

  1. 養育費の額や支払方法についてしっかり合意した上で書面を作成すべきこと
  2. 書面を作成したとしても、請求権の放棄の効果がある清算条項を置くかどうかについて、慎重に判断すべきこと
  3. 清算条項を定めて合意した場合でも、後から改めて養育費の請求が可能である法律関係になっていること

そこで、あなたができるだけ納得できる条件で離婚を成立させ、取れるはずの養育費をしっかり取っていくためには、信頼できる専門家の知識・ノウハウが必要となってきます。

当事務所には、離婚や養育費の手続きに詳しい弁護士が多数所属しておりますので、ご不安なことがあれば、何なりとお気軽にご相談いただければと思います。

 

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