子の引き渡し|子供を取り戻す手続きの流れや判断基準を弁護士が解説

執筆者 弁護士 宮崎晃
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
離婚分野に注力し、事務所全体の離婚・男女問題の相談件数は年間700件を超える。(2020年実績)

 

この記事でわかること

  • 子の引き渡しが認められる場合の判断基準がわかる
  • 子の引き渡しの手続きの流れがわかる
  • 子の引き渡しを実現するためのポイントがわかる
  • 子の引き渡しの命令に納得できない場合の対応がわかる

 

子の引渡しとは

「子の引き渡し」とは、子供を取り戻すために家裁に対して申し立てる調停や審判の手続きのことをいいます。

典型的には次のようなケースの場合に利用されます。

  1. ① 夫婦が別居している場合に一方が子を連れて別居を開始した場合
  2. ② 離婚後親権を取得したのに相手方が子を連れ去った場合
  3. ③ 離婚後親権を取得できなかった者(非親権者)が親権者の変更とともに、相手に子の引き渡しを求める場合

なお、①のケースでは、離婚前であり、夫婦が共同親権を持つことから、子の引き渡しと同時に、監護者指定の調停・審判を合わせて申し立てることが通常です。

親権を取得する前段階として、暫定的に子の監護者であることを指定してもらい、それを根拠として子の引き渡しを求めるのです。

また、③のケースでは、非親権者が子の引き渡しを求めることから、通常、親権者変更を合わせて請求することになります。

子が共同親権に服している場合

子の監護に関する処分として、子の引渡し及び監護権者の指定の調停・審判を申し立てる

離婚が成立し親権者が決定している場合

子の引渡しの調停・審判を申し立てる

非親権者が請求する場合

親権者の変更と子の引渡しの調停・審判を申し立てる

 

子の引渡しの判断基準

それでは、子の引き渡しはどのような場合に認められるのでしょうか。

申立人と相手方のいずれに監護させることが子の利益・福祉に適うかが判断基準となります。

したがって、親権者の指定の場合の同様の要素から判断されることとなります。

親権者の指定の判断で考慮される諸事情

父母の側

監護に対する意欲と能力、健康状態、経済的・精神的家庭環境、居住・教育環境、子に対する愛情の程度、実家の資産、親族・有人島の援助の可能性。

子供の側

年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況、子ども本人の意向など。

 

 

母親の申し立てが却下される場合がある?

親権の判断においては、一般的に母親のほうが有利であると考えられています。

それでは、子の引き渡しを母親が求める場合に、その申し立てが認められないケースはないのでしょうか。

次の3つの場合、母親であっても子の引き渡しが認められない可能性があると考えられます。

①母親の監護能力に問題がある場合

例えば、母親に重度の精神疾患がある場合や薬物に依存している場合など、子供の養育に重大な影響を及ぼす事情があれば、申し立てが認められないと考えられます。

②父親の監護が相当程度継続している

例えば、父親が子供を単独で育てていてその期間が長期化しており、かつ、子供が特に問題なく成長している場合、家裁はその事実状態を尊重すると考えられます。

したがって、母親の申し立てが認められない可能性があります。

③子供の強い意向がある場合

小学校高学年くらいになると、家裁は子供の意向を無視しなくなります。

そのため、このくらいの年齢の子供が父親のもとでの生活を強く希望している場合、母親の申し立てが認められない可能性があります。

 

子の引き渡しの手続きの流れ

子の引き渡しについては、上述したとおり、調停と審判の2つの方法が考えられます。

一般的に、家事事件では、話し合いを重視するため、通常は調停から申し立てを行います。

ただし、緊急を要する場合や相手が行方不明等の場合は、話し合いの余地がないため、いきなり審判を申し立てることができます。

子の引き渡しの手続の基本的な流れは以下のとおりです。

 

調停と審判の違い

調停手続きと審判手続について、特徴・メリット・デメリットをまとめると下表のとおりとなります。

調停手続(家裁での話し合いで解決する)

  • メリット
    裁判所が一刀両断的に命令を出す審判と異なり、柔軟な解決の可能性がある
  • デメリット
    相手が話し合いに応じないと成立しない

審判手続(父母の言い分を聞き、裁判官が判断し、決定を出す)

  • メリット
    裁判所の判断が示されることから最終的に紛争が終了する
  • デメリット
    裁判所の基準が自分に不利な場合は望まない結果となってしまう

 

子の引き渡しの調停手続きの必要書類と費用

必要な書類

  • 申立書
  • 戸籍謄本(子供の全部事項証明書)

申し立て先

相手方の住所地、または、当事者が合意する家裁

費用

  • 収入印紙1200円(子供一人につき)
  • 郵便切手

くわしくは管轄裁判所にお問い合わせください。

管轄裁判所はこちらから調べることができます。

参考:裁判所の管轄区域

 

家裁を利用する際の重要なポイント

上記のとおり、調停には、柔軟な解決の可能性というメリットがあります。

すなわち、審判では子の引き渡しが認められる可能性が低い事案でも、相手が同意してくれれば引き渡しが認められる可能性があります。

もっとも、子供との生活は相手にとっても重要なはずです。

したがって、子の引き渡しの事案に関しては、調停が成立する可能性は低いと考えられます。

他方で、調停手続きは一般的に長期間を要してしまいます。

相手が応じてくれない調停を延々と継続するのは、決して得策とは言えません。

したがって、調停から申し立てる場合で、相手が子の引き渡しに応じてくれない場合、早々と審判に移行してもらった方がよいでしょう。

なお、調停が不成立になると、自動的に審判に移行するため、別途の申し立ては不要です。

また、相手が応じてくれそうにないケースでは、調停を申し立てずに、いきなり審判を申し立てた方がよい場合もあります。

実際に、当事務所の場合、子の引き渡しの事案に関しては、調停を経ずにいきなり審判を申し立てる方法を選択する方が多いです。

 

 

子の引き渡し事案における調査官

子の引渡しの手続では、多くの事案で家庭裁判所調査官(以下「調査官」といいます。)が同席します(同法第59条1項)。

調査官は、児童心理学などに精通した家裁の専門職の公務員であり、子の意向の調査を行うなど、重要な役割を担っています。

第1回目の審判において、裁判官は、調査官や代理人弁護士らの意見を踏まえて、調査官による調査の内容を決めることが多くあります。

調査内容はケース・バイ・ケースですが、目的は、どちらの親が監護者としてふさわしいかを判断するためであり、多くの事案では、子供の監護状況を把握するために、現在、子供を監護している親の自宅に訪問するなどして、生活状況を確認します。

このような調査を経て、調査官は報告書を作成します。

この報告書には、調査官の意見として、いずれの親が監護者として相応しいかが記載されることがよくあります。

この調査官の意見は、調停や審判に大きな影響を及ぼす可能性があります。

そのため、調査官の調査はとても重要と言えます。

 

 

子の引き渡しの保全処分

保全処分とは、権利保全のために裁判所によって行なわれる暫定的な処分のことをいいます。

子の引き渡しの調停・審判は、通常、解決まで相当な期間を要してしまいます。

その間、子供が劣悪な状況におかれていると、子供の心身に多大な悪影響を及ぼします。

このようなケースでは、子の引き渡しの可否について、裁判所は迅速に判断する必要があり、緊急的な対応が求められます。

そこで、保全の必要性・緊急性という条件を満たす場合、本案の判断が示される前に、仮の処分として子の引き渡しが認められています。

保全処分にかかる期間

審判前の保全処分を申し立てていると、第1回目の期日は比較的早く指定される傾向です。

そして、上記の保全の要件を満たすことが明らかな場合は、すぐに保全処分が認められます。

しかし、現実には保全の要件を満たす事案は多くありません。

例えば、子供が虐待を受けている、食事を取ることができない、などの極めて劣悪な状況にあれば別ですが、そのような状況は稀です。

このような保全の要件を満たすかどうか明確とはいえない多くの事案では、保全処分の判断を留保したまま、調査を進め、本案の判断と合わせて保全処分の判断も示されることがあります。

また、保全の要件を満たすことが難しいような案件では、裁判所の方から、保全処分の取り下げを打診されることもあります。

 

子の引き渡しの申立書

子の監護者指定・引渡しの審判前の保全処分申立書の書式のサンプルは、こちら。

 

 

子の引渡しの強制執行

子の引き渡しについて、裁判所の結果が出た(調停の成立や審判の確定)にもかかわらず、相手が子供を引き渡してくれない場合、強制執行を検討せざるを得ません。

強制執行の具体的な方法としては、①間接強制と②直接的な強制執行の2つが考えられます。

間接強制

特徴:子供を引き渡さない場合に「1日あたり○円」などの金銭の支払いを命じる

  • メリット
    要件が緩やか
  • デメリット
    間接的に心理的なプレッシャーを与えるのみなので、子を取り戻せない可能性がある

直接的な強制執行

特徴:執行官が自宅などへ行き、相手の監護を解く

  • メリット
    子の引き渡しが期待できる
  • デメリット
    要件が厳しい

直接的な強制執行の要件

直接的な強制執行は、下記の場合に限り、認められます。

 

【根拠条文】
(子の引渡しの強制執行)
第百七十四条 子の引渡しの強制執行は、次の各号に掲げる方法のいずれかにより行う。
一 執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しを実施させる方法
二 第百七十二条第一項に規定する方法
2 前項第一号に掲げる方法による強制執行の申立ては、次の各号のいずれかに該当するときでなければすることができない。
一 第百七十二条第一項の規定による決定が確定した日から二週間を経過したとき(当該決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にあっては、その期間を経過したとき)。
二 前項第二号に掲げる方法による強制執行を実施しても、債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき。
三 子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき。
(以下省略)

引用元:民事執行法|電子政府の窓口

 

強制執行を回避できる?

子の引き渡しを命ぜられた現監護者がその命令に不服がある場合、家裁の審判については、高等裁判所に即時抗告をすることができます。

この即時抗告がなされると、審判の結果が確定せず、高裁で審理が行われることとなります。

したがって、家裁での申立てが認められたとしても、高裁の結果が確定するまで、子供を引き渡す必要がありません。

ただし、保全処分が認められた場合は別です。

保全処分は、緊急性の要請から、これに対して即時抗告がされても当然には執行停止の効力は認められていません(家事手続法第111条1項)。

すなわち、保全処分において、「子供を仮に引き渡せ」という命令が出ている場合、相手は即時抗告を行っても、執行力はなくならないため、子供を引き渡さなければなりません。

 

人身保護請求

子の引き渡しの事案においては、基本的には上述した子の引き渡しの審判と保全処分を検討することとなります。

しかし、保全処分が発令されても、実現できない状況があります。

このような場合に人身保護請求を行うことがあります。

これは、本来、拘束されている者の身体の自由を回復するための手続であり、人身保護法という法律に基づく手続です。

この手続を利用して子供を引き取る事が可能になる場合があります。

手続の迅速性・強制力が認められることが特徴ですが、拘束に顕著な違法性があることが要件となってきますので、子どもの争奪合戦の最後の切り札といわれています。

現実的に相手方のもとに子供を留めておくと、子供に悪影響を及ぼすおそれがあり、一刻も早く子供を引き取る必要がある場合、人身保護を地方裁判所に請求するという手続になります。

請求後、1週間以内を目処に審問が開かれます。

審問で相手方の行動の違法性が認められると、5日以内に子供の引渡しを命じる判決が出ます。

もし、相手方が判決に応じない場合は、勾引ないし勾留することができます。

 

人身保護請求の要件

 

家事審判と比較した場合のメリットとデメリット

人身保護請求は、手続が迅速であり、かつ、拘束者に対する勾留といった強制手段があること、また、請求者の住所地にも管轄が認められることがメリットと言えます。

反面、身体拘束の違法性が顕著であると言った要件をクリアしなければならず、なかなか認めてもらうのが難しいということがデメリットと言えます。

 

 

子の引渡しに必要となる弁護士費用

子の引き渡しの問題のみを依頼することも可能ですが、通常はその他の離婚問題と合わせてご依頼される方がほとんどです。

離婚問題をサポートする場合、協議によるのか、調停対応まで必要となるのかで弁護士費用は異なります。

また、子の引き渡しの事案では、「子の引き渡し・監護者指定の審判」とその「保全処分」という手続きを選択すべき場合が多いです。

調停や審判対応の場合、弁護士の労力も増すため、追加費用が必要となるのが一般的です。

また、離婚問題についての弁護士費用は、各法律事務所によって金額が異なります。

そのため、具体的な費用については相談の際に確認されることをお勧めいたします。

明朗会計の法律事務所であれば、ご相談時にお願いされるとお見積りを出してくれるでしょう。

 

 

まとめ以上、子の引き渡しの問題について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

子の引き渡しの事案では、まずその判断基準を押さえる必要があります。

そして、子の引き渡しの申し立てが認められるか否かの見通しを立てて、様々な手続きの中から最適な方法を選択することが重要となります。

これらの判断や手続きは、子の引き渡しについての豊富な経験とノウハウが重要となります。

そのため、子の引き渡しについては、離婚題を専門とする弁護士への早い段階でのご相談をお勧めいたします。

この記事が子供の問題でお困りの方にとってお役に立てば幸いです。

 


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執筆者 弁護士 宮崎晃
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
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