40代の将来の退職金は財産分与の対象となりますか?

執筆者 弁護士 宮崎晃
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
離婚分野に注力し、事務所全体の離婚・男女問題の問合せ件数は累計1万件超え。
退職金について質問です。

現在43歳である会社員の夫との離婚を考えています。

夫の定年は60歳ですが、将来の退職金は財産分与の対象になるのでしょうか?

 

 

 

弁護士の回答

財産分野の対象となる余地があります。

 

退職金は財産分与の対象か

お金退職金は、長年勤務を続けてきた者が退職する際、勤務先の退職金支給規定に従って支払われるものです。

退職金の法的性質としては、賃金の後払性質を持つとするのが通説的見解であり、婚姻継続中に、長年勤務を続けてきた者が退職金を得た場合、その取得に対しても夫婦の協力があるとして、取得した退職金は財産分与の対象となります。

もっとも、退職金を夫婦の共有財産として財産分与の対象とする場合は、婚姻期間に対応する退職金額のみがその対象であると考えられています。

なお、取得された退職金が他の財産の取得に利用されていた場合は、その財産が清算対象となります。

 

 

将来の退職金について

弁護士一方、今回のように、将来退職したときに支給を受けることのできる退職金(将来の退職金)に関しては、既に取得した退職金とは違い、あくまで将来「取得しうる」財産として離婚時の現存財産ということはできません。

しかし、これが財産分与の対象と認められないとすれば、離婚の時期によって財産分与額が大きく異なることとなり、退職金の支給があるまで離婚を我慢しなければならないという不合理な事態も生じ得ます。

そこで、離婚の際には具体化していなくとも、一定の勤続期間がある以上、将来の退職時に退職金の支給を受けることができる資格はすでに生じており、これを財産分与の際に清算の対象とすることができるのです。

また、すでに支給された退職金について婚姻期間相当分が夫婦共有財産として清算対象となるとするのであれば、将来の退職金についても婚姻期間相当分を清算の対象となるというべきです。

判例も、従来は将来の退職金支給の不確実性を理由に財産分与の対象とすることを否定するものも存在していましたが、近時の裁判例は、支給の蓋然性が高い場合、将来の退職金を財産分与の対象とすることを認めています。

この場合でも、離婚時に未だ具体化していない将来の退職金の支給自体の不確実性(会社の倒産・整理・労働者側の懲戒解雇などによる不支給の可能性)や金額の未確定性(将来の昇級などにより支給額が変動すること、定年前退職や死亡などにより支給時期も不確定であることなどによる)が問題となり、これに伴うリスクを財産分与の分与者と被分与者にどのように公平に分担させるかという点で、具体的な処理方法に事案に応じた処理方法を検討する必要があります。

なお、退職金が出たらお金を支払うという合意は可能かについては、こちらをご覧ください。

 

 

算定方法

実務上は、退職金の分与方法と算定方法の組み合わせにより大きく4つの方法がとられます。

離婚時に即時分与

①将来の退職金見込額から婚姻期間に相当する金額を算定し、分与を決定する方法

②離婚時に退職したと仮定して算定した退職金額のうち婚姻期間相当分を分与の対象とする方法

将来の退職金支給時を支払時期(あるいは支給条件)とする場合

③将来の退職金見込額から婚姻期間に相当する金額を算定し、分与を決定する方法

④離婚時に退職したと仮定して算定した退職金額のうち婚姻期間相当分を分与の対象とする方法

もっとも、離婚時に任意に退職したと仮定して算定する②や④の方法については、将来の退職金額と比べて少額となり被分与者に不利益となることがあり、以下のように増額を図るケースもあります。

判例 仮定して算定する場合に不利益が出るため増額を図った裁判例

・「一切の事情」として考慮して分与額の増額を図った【名古屋高判平成12年12月20日】

・扶養的要素を考慮して増額を図った【広島高判平成19年4月17日】

 

 

今回の質問内容において

43歳の配偶者に相当期間勤続年数があり、勤務先の就業規則等に退職金規定があれば、退職金支給の蓋然性は高く、定年退職まで年数があったとしても婚姻期間に相当する分の退職金を財産分与の対象とする余地はあります。

その上で、分与時期や算定方法については、具体的事情に応じて検討すべきでしょう。

 

 

 


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