監護権とは?|親権との違い・変更手続きやポイントを弁護士が解説

執筆者 弁護士 宮崎晃
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
離婚分野に注力し、事務所全体の離婚・男女問題の問合せ件数は累計1万件超え。

この記事でわかること

  • 監護権の親権との違い
  • 監護権が認められる場合
  • 監護権を変更するための手続きや必要書類
  • 養育費や母子手当への影響

 

監護権とは

監護権とは、簡単に言うと、「子供と一緒に生活できる」権利のことです。

子供との生活は、子供を愛する親にとってかけがえのないものです。

また、子供にとっても、肉体的・精神的に成長していく過程であり、今後の人生に多大な影響を与えるはずです。

したがって、監護権は子供と一緒に生活する親にとってもはもちろん、子供にとっても極めて重要と言えます。

 

監護権と親権との違い

親権という言葉はほとんどの方が耳にしたことがあるはずです。

しかし、その意味を正しく理解されている方は少ないでしょう。

多くの方は、親権と聞くと、子供と一緒に生活できる権利と考えるのではないでしょうか。

上記のとおり、「子供と一緒に生活できる権利」は監護権をいいます。

では、親権と監護権とは何が違うのでしょうか。

親権は、監護権を包摂する権利であり、その他にも財産管理権なども含みます。

すなわち、下図のとおり、監護権は親権の一部となります。

例えば、夫婦双方が親権を譲らない場合などに、親権者と監護者に分けて、それぞれが部分的に子供の責任を負うということができます。

親権者を父親と定め、監護者を母親と定めた場合、子どもは戸籍上父親の戸籍に残りますが、一方で、実際に引き取って子どもの面倒をみるのは母親ということになります。

子どもがまだ幼い場合や、親権をめぐる父母の対立が激しい場合にこのような方法をとることが考えられます。

もし、相手方と親権をめぐる対立に発生してしまったのであれば、親権を譲って自分が監護者になる方法もあるのです。

もっとも、多くの方は、「子供と一緒に生活できること」に喜びを感じているため、これを前提とするのであれば、大切なのは監護権といえます。

したがって、相手が監護権の分属を認めてくれなければどうしようもありません。

その場合は、相手と監護権を争うこととなります。

なお、監護者は、親権者を選ぶ場合と異なり、離婚と同時に決めなければならないわけではありません。

離婚が成立する前でも、離婚が成立した後でも、監護者を決めることができます。

 

監護権が認められる場合

それでは、どのような状況であれば、裁判所は監護権を認めるのでしょうか。

監護権の判断基準は、親権の場合と同様と考えられます。

すなわち、一般的に考慮すべき具体的事情としては、父母の側では、監護に対する意欲と能力、健康状態、経済的・精神的家庭環境、居住・教育環境、子に対する愛情の程度、実家の資産、親族・友人等の援助の可能性などであり、子どもの側では、年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況、子ども本人の意向などがあげられています。

 

監護権を変更する手続き・流れ

監護権について、父母が協議で決めることができないときは、家庭裁判所に申し立てて決めてもらうことになります。

家庭裁判所には、子の監護者の指定の調停、または審判を申し立てることができます。

監護権を変更する場合の手続の基本的な流れは以下のとおりです。

子の監護者指定の調停の申し立て

家裁に対して、調停を申し立てます。

調停とは、家裁での話し合いのことを言います。

子の監護者の指定については、調停のほかに、審判という手続きもあります。

しかし、家事事件では、話し合いを重視するため、通常は調停から申し立てを行います。

ただし、緊急を要する場合や相手が行方不明等の場合は、話し合いの余地がないため、いきなり審判を申し立てることができます。

 

必要な書類

申立書

戸籍謄本(子供の全部事項証明書)

申し立て先

相手方の住所地、または、当事者が合意する家裁

費用

収入印紙1200円(子供一人につき)

郵便切手

くわしくは管轄裁判所にお問い合わせください

管轄裁判所はこちらから調べることができます

参考:裁判所の管轄区域

 

調停での話し合い

調停とは、家裁での話し合いのことを言います。

調停のメリットは、裁判所が一刀両断的に命令を出す審判と異なり、柔軟な解決の可能性があることです。

具体的には、審判では、監護者変更の可能性が低い事案でも、相手が同意してくれれば監護者として認めてもらえる可能性があります。

もっとも、監護者であることは相手にとっても極めて重要です。

したがって、実務的には調停が成立する可能性は低く、相手が応じてくれない場合は早々と審判に移行した方がよい場合が多いです。

 

子の監護者指定の審判

話し合いがまとまらずに、子の監護者指定の調停が不成立になった場合、自動的に審判手続きが開始されます。

審判は、調停と異なり、話し合いで解決するものではなく、父母の言い分を聞き、裁判官が判断し、決定を出すという手続きです。

 

認容の審判

申立人の監護者の指定を認める決定(認容の審判)が出ると、相手はこれに対して不服の申し立て(「即時抗告」といいます。)を行うことができます。

即時抗告がなされると、高等裁判所で争うこととなります。

即時抗告がなされずに2週間が経過すると審判が確定し、監護権者が法的に確定します。

 

却下の審判

申立人の監護者指定が認められない決定(却下の審判)が出ると、申立人はこれに対して不服の申し立て(「即時抗告」といいます。)を行うことができます。

即時抗告がなされると、上記と同様に高等裁判所で争うこととなります。

即時抗告は2週間以内に行う必要があります。

高等裁判所でも親権者の変更が認められない場合、理論上は最高裁に不服の申し立て(「特別抗告」といいます。)が可能な場合があります。

もっとも、特別抗告は、「憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに」限定されます。

そのため、最高裁への特別抗告は極めて限定的なケースとなるでしょう。

 

 

監護権を取り戻したい場合

監護権が問題となる事案で多いのは次のようなケースです。

  • 妻が子供を連れて一方的に別居した
  • 妻が子供と別居して生活していたところ、夫が子供を連れ去った

このようなケースは、子供の生活が急激に変化することが懸念されます。

また、相手が子供と一緒に生活する状態が長引くと、親権・監護権の判断で相手が有利となる可能性もあります。

他方で、調停手続きから申し立てた場合、解決まで長年月を要することが想定されます。

すなわち、調停手続きは、一般的に解決まで時間を要します。

ケース・バイ・ケースではありますが、概ね半年から1年程度を見ておくべきでしょう。

そこで、このような場合、子供を取り戻したい親としては、調停手続きを経ることなく、いきなり審判手続を申し立てることがポイントとなります。

また、子供の生活に支障が出ているような事案で、迅速に裁判所の決定を仰ぎたい場合、保全処分を合わせて申し立てることをお勧めいたします。

この手続きのことを、「子の監護者指定・引渡しの審判前の保全処分」といいます。

保全処分を申し立てると、通常の審判手続よりも迅速に進行してくれることを期待できます。

 

 

監護権と養育費の関係

養育費の金額

既に離婚が成立している事案の場合、子供を監護している親は、非監護親に対して、養育費を請求できます。

養育費の具体的な金額は、父母それぞれの収入、子供の数・年齢等によって決まります。

養育費の目安として、養育費算定表というものがあり、これを見ることで相場を確認することができます。

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婚姻費用について

また、離婚が成立していない夫婦の場合、養育費は請求できませんが、離婚が成立するまで生活費(これを「婚姻費用」といいます。)を相手に請求できます。

婚姻費用の場合、子供の生活費に加えて、監護権者の生活費もプラスされるため、一般的には養育費よりも高額となる傾向です。

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監護権と母子手当の関係

子供を育てていくための重要な母子・父子手当として、児童手当と児童扶養手当があります。

 

児童手当について

児童手当は、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資するために支給される手当です。

児童手当は、現実的に子供を養育監護している親に支給されるべきものです。

したがって、例えば母親が子供と生活している状況で、父親に児童手当が支払われている場合、受給権者の変更の手続きをすべきです。

もし、相手が応じ場合は、弁護士に相談して受給権者変更の手続きを行うと良いでしょう。

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児童扶養手当について

児童扶養手当とは、一人親の児童のために、地方自治体から支給される手当です。

児童扶養手当も、児童手当と同様に、現実に子供を養育する親に支給されるべきものです。

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祖父母に監護権が認められる?

父母の双方とも、病気や何らかの事情で子供を育てていくことが難しいケースでは、祖父母が親に代わって子供を監護していくこともあります。

では、祖父母は上記の子の監護者指定の申し立てを行うことができるのでしょうか。

この問題については、以前から議論があるとこでしたが、2021年3月29日、最高裁が祖父母の申立権を否定しました。

この判例については、否定的な見解も多いのですが、最高裁の結論ですので、法律が改正されない限り、裁判所は申立権を認めることはないでしょう。

判例 祖父母の申立権を否定した裁判例

「父母以外の第三者は,事実上子を監護してきた者であっても,家庭裁判所に対し,家事事件手続法別表第2の3の項所定の子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできない。」

【最高裁令和3年3月29日】

引用元:最高裁判例集|裁判所ホームページ

したがって、祖父母の場合、実親が同意してくれれば子供と生活できますが、実親が同意しない場合、裁判所に監護者指定を申し立てることができないため、監護権は認められないこととなります。

 

 

まとめ以上、監護権について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

監護権の変更を考える場合、まずは相手との協議を行うべきです。

相手が同意してくれない場合、裁判所の手続きを利用せざるを得ませんが、その場合、監護権者の判断基準を踏まえて、的確に見通しを立てることがポイントとなります。

また、調停手続きは時間を要するため、監護者指定の審判や保全処分の申し立てを合わせて検討しなければなりません。

これらの判断や手続きは、専門知識とノウハウが重要となります。

そのため、監護権については、離婚題を専門とする弁護士への早い段階でのご相談をお勧めいたします。

この記事が監護権の問題でお困りの方にとってお役に立てば幸いです。

 

 


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