財産分与はいつの時点を基準にするか?【弁護士が解説】
離婚前に別居する場合、実務上、別居時を基準とすることが多いですが、離婚時とするケースもあります。
財産分与とは
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を分ける制度です。
夫婦が婚姻中に形成した財産は、原則として夫婦が協力して形成したものであるとの考えの下、いずれかの特有財産と断定できない場合には、夫婦の共有であると推定されます(民法762条2項)。
財産分与は、その法的な性質や請求権の内容などをめぐっていくつかの考え方がありますが、実務上は、財産分与には、
- ① 夫婦共有財産の清算
- ② 離婚後の扶養
- ③ 離婚に伴う慰謝料
- ④ 未払い婚姻費用の清算
が含まれ、これらをどのように処理していくべきかを問題にしています。
ただ、一般的な財産分与というと、①の夫婦共有財産の清算の意味で用いられることがほとんどです。
そこで、ここでは、①の夫婦共有財産の清算を前提として、解説いたします。
財産分与のルールなど詳しくはこちらのページも御覧ください。
財産分与の対象となるのは?
財産分与の対象財産としては、不動産、預貯金、有価証券、保険、自動車、退職金などがあげられます。
もちろん、現金も含まれますが、現金については通常、生活に必要な最小限の額しか保有していませんので、ほとんどのケースでは問題となりません。
例えば、タンス預金などで高額な現金がある場合は、財産分与の対象となります。
これらの対象となる財産について、いつの時点を基準として分けるのかが問題となります。
財産分与の基準時
離婚を決意すると、実際に離婚が成立するまでにいろいろな状況の変化が想定されます。
例えば、次のような経過が考えられます。
上記は、協議離婚の場合の流れです。
中には、離婚調停や裁判を起こす事案もあります。
ここで問題が生じます。
夫婦の財産は刻一刻と変化していきます。
上記の①の離婚を決意した後に自動車や株式を買ったりすることもあります。
また、③の別居の後に、借金をすることもあるでしょう。
そのため、上記の流れの中で、「いつの時点に存在する財産を分ければいいのか?」が問題となるのです。
この問題については、大きく分けて、別居時という考え方と、離婚時という考え方があります。
具体的な状況によって異なりますが、別居が先行している事案では、家裁実務上、基本的には別居時が採用される可能性が高いと思われます。
以下、具体例で解説します。
具体例
<状況>
3年前に別居
別居時の預貯金:合計200万円(夫名義100万円、妻名義100万円)
現在の預貯金 :合計500万円(夫名義400万円、妻名義100万円)
<考え方>
上記事例の場合、現在を基準とすれば、500万円が対象となるので、2分の1ルールにより、それぞれの取得額は250万円となります。
2分の1ルールについてはこちらのページを御覧ください。
結果、妻は夫に対し、150万円( 250万円 — 100万円 = 150万円 )を請求できます。
ところが、別居時を基準とすれば、200万円が対象となるので、それぞれの取得額は100万円となります。
結果、妻は夫に対し、財産分与の請求はできなくなります( 100万円 – 100万円 = 0 )。
この問題については、裁判例も別れており、一概には言えませんが、基本的には次のように考えるべきでしょう。
別居とともに、相手の財産形成に対する協力関係がなくなっているような場合は、別居時を基準とすべきです。
しかし、そのような協力関係が継続しているような場合は、離婚時(現在時)を基準としてよいと思われます。
例えば、妻が子どもを連れて別居し、育児を行っていたような場合は、妻の協力があったからこそ、夫は安心して仕事に打ち込んで現在の資産を形成したともいえます。
また、妻が夫の事業に協力していたような場合も同様です。
別居直前に預貯金を引き出した場合は?
上記の事例では、特段の事情がなければ、基本的に、別居時を基準とすると解説しました。
では、例えば、別居の1週間前に、妻が100万円を口座から引き出して使ってしまったような場合はどうでしょうか。
別居時を基準とすると、夫の預貯金は100万円、妻の預貯金は0円です。
そうすると、2分の1ルールで、妻は夫に対して50万円を請求できることになります。
しかし、これは夫側からすると、不当な請求と言えます。
このような問題について、法律上の記載はありません。
しかし、家裁実務上の処理としては、このような場合、財産分与の対象となる妻の預貯金は100万円と評価されると考えられます。
財産分与の評価の基準時に注意
上記のとおり、別居が先行しているケースでは、財産分与の基準時は、基本的に別居時となります。
例えば、不動産や株式のような財産は、時価が変動します。
このような時価が変動する財産に関しては、「いつの時点で評価するか」という問題が生じます。
これについては、原則として現在時(すなわち、離婚時)とすると解されています。
したがって、不動産や株式の査定は、別居時ではなく、最新のものを使うようにされてください。
まとめ以上、財産分与の基準時について解説しましたが、いかがだったでしょうか。
この問題については、最高裁判所の直接的な判例もなく、下級審では判断が別れていますので、どのように考えるかは専門的な知識が必要です。
離婚専門の弁護士へご相談されることをおすすめします。
私たちデイライト法律事務所には、財産分与に精通した弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、複雑な事案であっても相談者を強力にサポートしています。
財産分与について、気になることがあれば、いつでも当事務所まで相談にいらしてください。
ご相談の流れはこちらからどうぞ。