離婚前に面会交流させたのですが、子どもを返してくれません。

執筆者 弁護士 宮崎晃
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
離婚分野に注力し、事務所全体の離婚・男女問題の問合せ件数は累計1万件超え。

Q:離婚に向けた協議中、別居している夫(妻)と3歳の子どもが面会できるよう取り決めをしたのですが、面会後、夫(妻)が子どもを私のもとに返すことを断り、話し合いにも応じてくれません。
子どもを私のもとに戻すことはできないのでしょうか。

できる場合があります。

解説する女性のイラスト夫婦が別居中、子を監護養育してきた母親が、面会交流をしてそのまま子どもを返さない父親に対して子どもの引渡しを要求してもこれに応じない場合、この父親を相手方として、子の引渡しを求める「家事審判・調停申立書」を管轄の家庭裁判所に提出して申し立てます。

《子の引渡しの保全処分》

泣く子供のイメージ画像子の引渡しに関する家事調停または家事審判の申立てをした場合には、事件の関係人(ここでは「子ども」がこれにあたります)の急迫の危険を防止するため、必要があるときは、申立てにより、審判前の保全処分として「未成年者の仮の引渡し」を求める方法があります。

「未成年者の仮の引渡し」が認められるのは、子の急迫の危険を防止するため必要があるとき、すなわち、子が現在、生命・身体に限らず子の健全な心身の発達を阻害する危険に直面しているか、これに直面するおそれが目前に迫っていると認められる場合です。

判例では、夫婦間の子の引渡しをめぐる争いに監視、審判前の保全処分として未成年者の引渡しを命じる場合には、次の要件を総合的に検討した上で、未成年者について引渡しの強制執行がされてもやむをえないと考えられるような必要性があることを要するとされています(東京高決平成24.10.18)。

① 監護者が未成年者を監護するに至った原因が強制的な奪取又はそれに準じたものであるかどうか

② 虐待の防止

③ 生育環境の急激な悪化の回避

④ その他の未成年者の福祉のために未成年者の引渡しを命じることが必要であるかどうか、及び翻案の審判の確定を待つことによって未成年者の福祉に反する事態を招くおそれがあるといえるかどうか

⑤ 未成年者をめぐるその他の事情

 

《人身保護請求》

別居中の夫婦間における子の連れ去りに対処する緊急の法的手段としては、上記「子の引渡しの保全処分」のほかに、人身保護請求による方法もあります。

人身保護請求は、拘束又は拘束に関する裁判、処分がその権限なしにされ、または法令の定める方式、手続に著しく違反していることが顕著な場合に限ってすることができる、とされています。

言葉は難しいですが、これは、子を連れ去った親による子の監護養育(拘束)が、顕著(あきらか)に違法であるといえるときです。

悲しい子供のイメージ画像この監護養育(拘束)が「顕著に違法」とされるのは、他方配偶者による子どもの監護が、一方の配偶者の監護に比べて、子の幸福に反することが明白である場合です(「明白性の要件」といいます。最判平5.10.19)。

また、「明白性の要件」については、「他方の配偶者の親権の行使が家裁の子の引渡しなどの仮処分又は本案審判により実質上制限されているのに他方配偶者がこれに従わない場合(家庭裁判所が一方の配偶者に対し、他方の配偶者へ子どもを引き渡しなさいと命じている場合等)や、他方の配偶者の監護の下では幼児の健康が損なわれ又は満足な義務教育を受けることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみても容認することができないような例外的な場合」(最判平6.4.26)がこれにあたるとされています。

子の引渡しの保全処分と人身保護請求の関係

寂しい母子のイメージ画像上記(最判平6.4.26)の判例からすると、子の引渡しの保全処分と人身保護請求の関係は、原則として、人身保護請求に先んじて子の引渡しの保全処分が活用されるべきということになります。

 

《迅速なご対応を!》

上記2つの方法によって子どもの引渡しを求めることになりますが、「要件が厳しくて認められるのが難しそう…」「結局子どもが連れ去られても、自分の下に返ってこないのでは?」と不安になると思います。

しかし、共同親権者である夫婦の別居中に、その一方の下で監護されていた未成年者を他方が一方的に連れ去った場合において、連れ去られるまで未成年者を監護していた親権者が速やかに未成年者の仮の引渡しを求める審判前の保全処分を申し立てたときは、人身保護請求の場合における法的枠組みをも考慮して申し立ての当否を判断するのが相当であるとし、従前監護していた親権者の監護下に戻すと未成年者の健康が著しく損なわれたり、必要な養育看護が施されなかったりするなど、未成年者の福祉に反し、親権行使の態様として容認することができない状態となることが見込まれる特段の事情がない限り、その申し立てを認め、その後の監護者の指定等の本案審判において、いずれの親が監護することが未成年者の福祉にかなうかを判断するのが相当であるとしています(東京高決平20.12.18)。

 

ご質問のような場合においても、迅速かつ適切な対応をすることで、子どもを取り戻せる可能性が高くなるということです。

 


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