年金分割しなかったらどうなる?年金分割しない合意の効力を解説

執筆者 弁護士 髙井翔
弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  
離婚分野に注力し、事務所全体の離婚・男女問題の問合せ件数は累計1万件超え。

年金分割をしないと将来受け取る年金額の増減がありません。

年金分割をしない旨の合意については、法的効力が認められない可能性があります。

また、3号分割は単独でも手続きが可能です。

年金分割とは?

年金分割とは、結婚している間に夫婦が支払った厚生年金の保険料の支払記録(専門用語としては年金に係る標準報酬等といいます。)を、分割する制度をいいます。

年金分割により、厚生年金の保険料をより多く支払っていた人(通常は夫)から、少なく支払っていた人(通常は妻)へと、保険料の支払記録が移動することになり、将来もらえる厚生年金の額が増減することになります。

年金分割の図

年金分割は、主に会社員や公務員が加入している厚生年金に関する制度です。

そのため、結婚期間の全期間において、夫婦が共に、国民年金の保険料しか支払っていない場合(自営業者や専業主婦(夫)など)には、離婚の際の年金分割は問題となりません。

 

年金分割の種類

年金分割の方法には、①合意分割(調停や審判を利用した年金分割もこちらに分類されます。)と②3号分割の2種類が存在します。

年金分割の種類について詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

年金分割をしないで離婚するとどうなる?|具体例でわかりやすく解説

夫が会社員で妻が専業主婦のケース

年金分割の効果が分かりやすい例として、夫が会社員で妻(A さん)が専業主婦のケースを考えてみます。

この場合、年金分割をすることによってメリットがあるのは、婚姻期間中に厚生年金を支払っていなかった妻であるAさんです。

Aさんは、夫の扶養に入っていたため、合意分割と3号分割のいずれかの方法により年金分割の制度を利用することができる状況でした。

夫が会社員で妻が専業主婦のケース①

Aさんは離婚届を提出して夫と離婚をしましたが、年金分割という制度について知らなかったため、離婚後に年金分割の手続きを行いませんでした。

その後、Aさんはパート勤務をして生計を立てて生活し、やがて年金を受給できる年齢になりました。

 

年金分割をしなかった結果

Aさんがもらえる年金は、老齢基礎年金(国民年金)だけで、厚生年金を受給することはできませんでした。

一方、夫は、離婚後も同じ会社で勤務を続け、定年退職後は、十分生活できるだけの老齢基礎年金と厚生年金を受給することになりました。

仮に、Aさんが年金分割の手続きを行っていれば、夫が受給していた厚生年金の一部を受給することができ、現状より余裕のある生活が送ることができたかもしれません。

年金分割の結果のイラスト

離婚時の年金分割の重要性

年金分割は、離婚した場合に、夫婦の結婚期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です。

したがって、分割する側(多くの場合は妻側)だけでなく、分割される側(多くの場合は夫側)にとって、とても重要な制度と言えます。

分割する側(妻側)にとっての重要性

総務省のデータによれば、現在、単身で老後に必要となる生活費は少なくとも13万円程度と考えられています。

参考:2020年家計調査年報|65歳以上の単身無職世帯の1カ月の収入と支出

高齢となると、十分働くこともできずに収入がなくなってしまうことが予想されます。

しかし、年金分割を行うと、通常、年金が受給できる年齢になった以降、収入が増加します。

したがって、妻側にとって、年金分割は生活するための収入を得る重要な手段といえます。

分割される側(夫側)

妻側の場合とは反対に、年金分割は夫側にとって、将来の収入の減少を意味します。

妻側の貢献度が高いようなケースでは、夫側としても年金分割を認めることに抵抗が少ないかと思いますが、妻側が家計に貢献してこなかった場合、受け入れがたいと感じることがあります。

そのため、夫側にとっても、分割の割合は重大な影響を及ぼすといえます。

 

 

離婚時に年金分割をしないことに合意した場合

年金分割をしない合意の効力|離婚後の請求は可能?

年金分割をする際、合意分割においては、当事者間でどのような割合で年金分割をするかを定める必要があります。

按分割合については、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて定めてもらうことも可能ですが、按分割合は2分の1とされることがほとんどであることから、当事者間の合意においても2分の1と定めることが多いようです。

しかしながら、今回のAさんのように離婚に応じるという条件や、慰謝料請求をしないという条件で年金分割を請求しないことに同意してしまうケースがあります。

ここで、年金分割請求権は、厚生労働大臣に対する公法上の請求権であり、当事者の一方から他方に対する請求権ではありません。

したがって、単に当事者で精算条項を入れた場合(「当事者間には何らの債権債務が存在しないことを確認する。」等の条項。)には、当事者の一方はこの条項に縛られずに年金分割請求を行うことが可能です。

しかしながら、当事者間で裁判所に申立てをしない旨の合意をすることは可能であり、「年金分割の按分割合に関する処分の審判又は調停の申立てをしない。」との合意をすることは可能です。

その場合は、結局、当事者間(裁判所を通じても)で年金分割の按分割合を定めることができず合意分割はできなくなる可能性があります。

ただし、この問題については、見解が分かれているため、具体的な状況をもとに判定することが必要と考えます。

そのため、年金分割に詳しい弁護士へのご相談をお勧めいたします。

 

年金分割をしないという合意をした場合の3つの問題点

年金分割をしない旨の合意を行ったケースでは、以下のような共通した問題が傾向として見受けられます。

年金分割をしないという合意をした場合の3つの問題点

 

年金分割について正確に理解していない

年金分割の制度は、複雑で、素人の方には理解しにくい傾向があります。

年金分割を行った場合と年金分割を行わなかった場合について、どの程度の差があるのかは離婚を考えた場合は押さえるべきポイントです。

これらについて、まったく理解しないまま、年金分割をしない合意を行うと、大きな損失を受ける可能性があるので注意が必要です。

 

当事者間の協議が難しい

「年金分割が公法上の請求権であるから、年金分割をしない旨の合意の効力は無効」と相手に伝えても、相手は理解できない場合が多いと思われます。

また、年金分割をしないことを条件として、離婚に応じてあげたのに、その約束を反故にして、年金分割を請求されると、相手は、騙されたような気持ちになるでしょう。

相手は「公法上の請求権」などと理屈を述べられても、到底納得できず、感情的になると想定されます。

このような状況では、冷静に話し合うことが難しいと思われます。

 

解決まで長期間を要する

当事者間での話し合いが難しい場合、年金分割の調停手続きを利用することとなりますが、調停は一般的に長期化する傾向です。

また、調停は平日の日中に行われます。したがって、お仕事をされている方は会社を休まなければならないでしょう。

このように、調停手続きは、当事者の方に大きな負担がかかる可能性があります。

 

 

年金分割を知らずに離婚した場合はどうすればいい?

では、年金分割を知らずに離婚をした場合はどのように対処すればよいのでしょうか。

ここでは、大きく分けて2つの問題があります。一つは、期間制限の問題、もう一つはどのような手続きを選択するべきかという問題です。

年金分割には時効がある?〜期間制限の問題〜

年金分割の手続きは、離婚が成立した日の翌日から、2年以内に行わなければならないと法律上定められています。

そのため、離婚成立後2年が経過している場合には、残念ながら年金分割の手続きを行うことはできません。

また、これは例外的ではありますが、年金分割の手続きを行う前に元配偶者が死亡した場合、元配偶者が死亡してから1か月が経過してしまうと、離婚後2年以内であっても、年金分割の手続きを行うことができなくなってしまいます。

さらに、この死亡後1か月という期間制限は、元配偶者が死亡したことを知らなかったとしても、適用されてしまいます(東京地裁平成26年7月11日、高裁も第一審の判断を支持)。

したがって、年金分割を知らずに離婚をした場合は、できる限り速やかに、下記の年金分割の手続きを行うことが重要となります。

なお、離婚をした日の翌日から起算して2年が経過する前に、年金分割の調停や審判の申立てをした場合には、調停や審判の結果が出るときに2年が経過していても、年金分割の手続きを行うことが可能です。

除斥期間

年金分割の期間制限の2年間は、厳密には時効ではなく、除斥期間と呼ばれるものになります。

時効とは異なり、中断措置をとることができないので注意してください。

 

年金分割の手続きの問題

①年金分割によって利益があるかどうか

まず、ご自身が、年金分割によって利益を得ることができるかどうかについて調べる必要があります。

具体的には、ご自身が第2号改定者(厚生年金の支払いが少ない方、厚生年金をもらう側)に該当するかを調べることになります。

ご自身が、第1号改定者(厚生年金の支払いが多い方、厚生年金をあげる側)に該当するか、第2号改定者(厚生年金の支払いが少ない方、厚生年金をもらう側)に該当するかは、最寄りの年金事務所において、書類(「年金分割のための情報通知書」といいます。)を取得して調べる必要があります。

ご自身が第2号改定者に該当することが確認できた場合には、年金分割を行うメリットがある、すなわち将来もらうことのできる年金額を増やすことができるといえるでしょう。

 

②合意分割か3号分割か

3号分割のメリットは、他方配偶者の合意を得ることなく年金分割の手続きをすることができる点にあります。

しかし、①3号分割は、平成20年(2008年)4月1日以降の婚姻期間が対象となる制度です。

また、②国民年金第3号被保険者(会社員や公務員である他方配偶者の被扶養配偶者で、20歳以上60歳未満の方)である期間についてのみ分割が可能という制限があります。

そのため、平成20年(2008年)4月1日以前に婚姻した方や、婚姻期間中に扶養の範囲を超えて働いていた方については、合意分割の方法を選択する方が良いでしょう。

合意分割を行う方法としては、元配偶者二人一緒に年金事務所に行く(委任状があれば、代理人を立てることも可能です)、公証役場で年金分割に関する合意書の認証を受け、その合意書を年金事務所に持参する、年金分割の調停・審判の申立てを行う方法があります。

いずれの方法によっても、適切な手続きを行うことで年金分割の手続きをすることが可能です。

もっとも、離婚した後で、再び元配偶者と直接会うことは控えたいと考える方が多いと思います。

そのような方は、まずは離婚問題に詳しい弁護士へご相談されることをお勧めいたします。

弁護士が依頼者に代わって相手と交渉したり、年金分割の調停・審判の申立てを行ってくれるでしょう。

年金分割について詳しくはこちらをご覧ください。

 

まとめ離婚時に年金分割をしなかった場合について解説をいたしましたが、いかがだったでしょうか。

離婚後に、年金分割を知った場合であっても、離婚をした日の翌日から起算して2年が経過する前に、適切な手続きを行うことができれば、将来もらうことのできる年金額を増やすことが可能です。

しかしながら、自分が年金分割の手続きを利用できるのかどうかや、どのような方法で年金分割を行ったら良いか分からないという方も多くいらっしゃると思います。

年金分割をすることで将来もらうことのできる年金額を増やすことができるにもかかわらず、手続きを忘れていたことなどの理由から、本来もらえるはずであった年金がもらえなくなる事態は避けなければなりません。

年金分割で損をしないためにも、年金分割についてくわしく知りたい方は、離婚専門の弁護士へ相談されると良いでしょう。

 

 


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執筆者 弁護士 髙井翔
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