自営業者の婚姻費用の算出方法とは!【弁護士が解説】
自営業者の婚姻費用は、確定申告書を手がかりとして算出します。
ケース・バイ・ケースで判断するため注意が必要です。
婚姻費用とは
夫婦は、結婚すると同居し、共同生活を営みます。
こうした結婚生活を維持するには、住居費、光熱費、食費、医療費、被服費、図書費、娯楽費、諸雑費などの費用がかかります。
この費用のことを「婚姻費用」といいます。
養育費と似ていますが、養育費は「離婚後」の「子どもに要する費用」であるのに対し、婚姻費用は、「離婚が成立するまでの間」の支払い義務で、「子供だけではなく、パートナーの生活費」を含むものです。
したがって、通常の場合は、養育費よりも高額になります。
具体的な婚姻費用の額は、家裁実務上、夫婦双方の収入、子供の数と年齢をもとに一定の計算式に当てはめて判断します。
婚姻費用について詳しい解説はこちらのページをごらんください。
自営業者の場合は?
婚姻費用は、上記のとおり、双方の「収入」を基準として判定します。
給与所得者の場合、この「収入」は総収入、すなわち税込みの収入を見ます(社会保険や税金の控除前の金額)。
この総収入いついては、源泉徴収票、または、所得証明書を見れば、明記されているので比較的調査が容易です。
問題は、自営業者の場合です。
自営業者の場合、確定申告書に記載されている、「課税される所得金額」をベースとして収入を判定します。
しかし、ここで注意が必要です。
「課税される所得金額」は、税法上、種々の観点から控除がされた結果ですので、その金額をそのまま総収入と考えるべきではない場合があります。
このような場合、税法上控除された費用のうち、現実に支出されていないものは控除すべきではありません。
具体的には、①青色申告特別控除、②雑損控除、③寡婦寡夫控除、④勤労学生障害者控除、④配偶者控除、⑤配偶者特別控除、⑥扶養控除、⑦基礎控除は税法上の控除項目であり、現実に支出されているわけではなく、また、⑧専従者給与が計上されていても、実際には支払われていない場合があります。
したがって、これらは控除すべきでないことになります。
さらに、⑨医療費控除、⑩生命保険料控除等については、標準的な保健医療及び保健掛け金は既に特別経費として算定表の中で考慮されていますから、控除すべきではありません。
ただし、算定表が想定する標準的な額を超える特別に高額な医療費は、控除することも検討される余地があります。
加えて、⑪小規模企業共済等掛金控除や⑫寄付金控除は、性質上、婚姻費用や養育費の支払に優先すべきものといえないため、控除すべきではありません。
このように、自営業者の総収入を認定する場合には、税法上控除されたもののうち、現実に支出されていない費用などを検討し、これを「課税される所得」の額に加算する必要があります。
会社経営者は自営業者か?
会社経営者の収入について、よく「自営業者」に当てはまると誤解されている方が多いので注意が必要です。
会社組織の経営者は、通常、役員報酬をもらっています。
この役員報酬は、給与所得となります。
すなわち、婚姻費用や養育費の算定における、「自営業者」とは、個人事業主のことを指します。
したがって、会社経営者の場合、源泉徴収票の「総収入」を給与所得者の収入として計算することになります。
もっとも、注意が必要なのは、会社経営者の場合、他に所得がある場合があります。
例えば、他の会社からの報酬や、株式の配当所得、不動産所得などです。
これらがある場合、婚姻費用の算定にあたってはすべての所得を把握しなければなりません。
そして、これらすべてを把握するためには、確定申告書を確認したほうがよいでしょう。
そのため、会社経営者の場合、確定申告をしていたら確定申告を調べる必要があります。
確定申告をしていない場合であれば、源泉徴収票を調べるとよいでしょう。
婚姻費用のポイント
①婚姻費用の適正額を調査する
婚姻費用は、相手が主張する額が適正額とは限りません。
現在はネットなどで、ある程度自分で調べることもできますが、参考程度に留めて、正確な額は専門家に相談すべきです。
婚姻費用の正確な算定には、高度な専門知識と経験が必要であり、ネット上の情報で判断することは危険だからです。
例えば、上記のとおり、婚姻費用は双方の収入をもとに判断しますが、この収入の判断についても正確な知識が必要です。
特に、相手が自営業者や副収入があるような場合、専門の弁護士でなければ適切な判断が困難と思われます。
したがって、ネット上の情報のみではなく、離婚問題に詳しい弁護士に相談するなどして適正額を把握するようにしましょう。
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②第三者に間に入ってもらう
婚姻費用の適正額がわかれば、それももとに相手と協議します。
しかし、相手が納得してくれない場合は、当事者間での協議は困難と考えられます。
このよう場合は、第三者に間に入ってもらうことを検討しましょう。
具体的には、弁護士に交渉を依頼するという方法が考えられます。
離婚問題に詳しい弁護士であれば、婚姻費用について、専門家としての意見を述べることで相手を説得できる可能性があります。
また、合意が成立した場合、婚姻費用の合意書を取り交わすことも可能なので、後からのトラブルを防止できるでしょう。
まとめ以上、自営業者の場合の婚姻費用の算出について解説しましたが、いかがだったでしょうか。
自営業者の婚姻費用は、給与所得者の場合と比べてわかりにくく、弁護士にとっても難易度が高い領域の問題です。
他方で、婚姻費用は、毎月発生するため、請求する側にとっても、請求される側にとっても、金額がいくらになるかは重要です。
自営業者の婚姻費用の適正額を判断するためには、高度な専門知識と経験が必要と思われます。
そこで、婚姻費用でお悩みの方は、ぜひ一度、離婚専門の弁護士にご相談されることをおすすめします。
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