児童扶養手当をもらうと養育費は減るのか?【弁護士解説】
数年前に妻と離婚しました。
当時、お互いの収入を基準とする「算定表」というものに従って養育費の額を決めたのですが、元妻は離婚後、私からの養育費とは別に、児童扶養手当等の公的扶助を受け取っているようです。
元妻がこのような手当を受け取っている場合でも、私は今までどおりの養育費を支払わなければならないのでしょうか。
児童扶養手当(かつての「母子手当」)は、公的扶助です。公的扶助による収入等は当事者の収入として加算されません。したがって、児童扶養手当を受給しても養育費は減額されません。
児童扶養手当(母子手当)とは?
児童扶養手当とは、一人親(シングルマザーなど)の児童のために、地方自治体から支給される手当です。
かつては、父子家庭(シングルファザー)は受給できませんでしたが、男女差別ではないかとの指摘があり、法改正がなされ、父子家庭であっても、要件を満たせば受給できるようになりました。
手当の名前も、母親のみを連想する「母子手当」から「児童扶養手当」変更されました。
児童扶養手当の受給の要件
児童扶養手当は、以下に該当する場合に原則として、受給できます。
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- 父母の離婚
- 父又は母の死亡
- 父又は母が重度の障がい(国民年金の障害等級1級程度)
- 父又は母から引き続き1年以上遺棄されている
- 父又は母が法令により、引き続き1年以上拘禁されている
- 婚姻によらないで出生した
- 父又は母が裁判所から配偶者の暴力(DV)による保護命令を受けた
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児童扶養手当の額
手当の額は、法令で定まっていますが、子供の数によって異なり、毎年改定されます。
また、所得に応じて、受給額が異なり、高額所得者になると、まったく受給できません。
例えば、2019年8月振り込み分からの受給額は、下表のとおりです。
子供の数 | 全部受給できる場合 | 一部受給できる場合 |
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1人 | 月額4万2910円 | 月額1万0120円〜4万2900円 |
2人 | 月額5万3050円 | 月額1万5190円〜5万3050円 |
3人目以降 | 1人につき月額6080円加算 | 月額3040円〜6070円を加算 |
最新版は各自治体のホームページから確認が可能です。
児童扶養手当について、くわしくはこちらのページをごらんください。
児童扶養手当をもらうと養育費は減らせる?
上記のように、児童扶養手当は、全部受給できる場合、子供が1名でも月額4万円を超えており、大きな収入源となります。
したがって、養育費を支払う側(多くは父親側)からは、「児童扶養手当を受給できるのであれば、その分を養育費から減らせませんか?」というご相談が多く寄せられています。
そこで、児童扶養手当と養育費との関係が問題となります。
養育費は、
① 義務者(子どもと別居する親)及び権利者(子どもを養育監護する親)それぞれの基礎収入を認定
② 父母双方に子の生活保持義務があるとの前提で、子が義務者と同居していると仮定した場合の子の生活費を算定
③ 子の生活費は、父母それぞれが負担能力に応じて分担すべきであるとの前提で、義務者及び権利者の基礎収入の割合で按分し、義務者が支払うべき養育費の額を算定する
というような手順を経て算定されますが、簡単にいえば、①で認定された基礎収入額に基づき、②や③の諸事情を加味して簡易迅速に養育費の合計額を導くことができるにしたものが「算定表」です。(もっとも、協議による場合等、算定表によらない養育費の額を定めることもできます。)
子どもを監護養育する親は、児童扶養手当、特別児童扶養手当、児童手当等の公的援助を受けることができます。
しかし、扶養義務については私的扶助が優先され、公的扶助は私的扶助の補充的な役割を担います。
この理由から、児童扶養手当や児童手当などの公的援助(扶助)を養育費算定にあたっての収入に加算するのは相当ではありません。
すなわち、あくまでも子を扶養する親の収入による援助(扶助)が前提となり、児童扶養手当等はその補助的な位置づけであるといえます。
以上のことから、離婚後、子どもを監護養育している親が児童扶養手当等の公的援助を受け取っていたとしても、養育費は減額されません。
もっとも、養育費を支払う義務者の収入が少ないような場合には、権利者が公的扶助を受けることを考慮して養育費の額が調整されることもあるかと思います。
児童扶養手当を受給している場合の養育費のポイント
児童扶養手当を受給している場合の養育費のポイントについて解説いたします。
合意の有無がポイント
離婚後の養育費の減額が認められるかは、養育費の合意があったか否かが大きなポイントとなります。
養育費についての取り決めがあった場合、簡単にはその額を変更することはできません。
養育費を変更できるのは、裁判実務上、「事情の変更」があったと認められる場合となります。
この事情の変更の具体例としては、元妻が再婚して子どもを再婚相手の養子に入れたような場合となります。
事情変更について、詳しくはこちらをどうぞ。
しかし、離婚する際、特に養育費の取り決めをせずに、離婚してから一定の金銭を支払っているというケースがあります。
この場合、養育費の合意があったか否かが争点となります。
例えば、合意書を交わしていなかったとしても、離婚後何年も毎月定額を支払っていた場合、養育費の額についての合意があったと認定される可能性があります。
しかし、養育費をたまにしか送金しない、しかも、額もバラバラ、という事案では、そもそも養育費についての合意がなかったのではないかと考えられます。
ご質問のケースでは、算定表に従って養育費の額を取り決めたとのことです。
そのため、口頭であったとしても、一応、養育費についての合意があった可能性が高いと思われます。
しかし、取り決めの具体的な内容しだいでは、合意が認められない可能性もありますので、当時の具体的な状況について、専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
交渉自体は可能
上記のとおり、児童扶養手当は公的扶助であり、仮に家裁に調停申し立てた場合、調停委員からは「減額は難しい」などの発言があるかもしれません。
また、調停で話し合いがつかない場合、審判手続きに移行しますが、そうすると養育費の減額は認められない可能性が高いと思います。
このように、裁判所での手続きでは、不利な結果が予想されます。
しかし、相手方との任意の交渉は可能です。
相手方が減額に応じてくれれば、それが適正額を下回っていたとしても、問題はありません。
したがって、ご質問のケースでは、なるべく裁判所での手続き(調停等)を避けて、まずは相手方と直接話し合って見られることをお勧めいたします。
合意書の締結
相手方が養育費の減額に応じてくれた場合、養育費の減額についての合意書を交わしたおいたほうがよいでしょう。
合意書がないと、後々トラブルになることがあります。
例えば、養育費の額を下げることに同意してくれたので、減額して支払っていたら、数年後、相手方が「未払い養育費を支払え」といってきた場合、合意の存在について、言った言わないの争いとなります。
その場合、減額の合意を立証できないと、裁判では負ける可能性があり、多額の未払い養育費の支払いを命ぜられます。
このようなことを避けるために、相手方が養育費の減額に応じてくれた場合、合意書を作成して締結しておくと安心です。
養育費変更の合意書については、当事務所のホームページから記入例のダウンロードが可能です。
ダウンロードはこちらからどうぞ。
もっとも、最適な合意書の内容については個々の案件によって異なるため、あくまで参考程度にとどめ、専門家の助言のもと作成されるようにしてください。
まとめ
養育費は、受け取る側にとっても、支払う側にとっても、重要な金銭であり、適切な額を算定しなければなりません。
しかし、養育費は父母の収入状況、子供に要する支出の程度、その他の事情(住宅ローンの負担等)によって、適正額は異なります。
そのため、算定表などを鵜呑みにせずに、離婚専門の弁護士にご相談されることをお勧めします。
デイライトの離婚事件チームは、離婚問題に注力する弁護士のみで構成されたプロフェッショナル集団です。
養育費の適正額についての診断を行っていますので、お気軽にご相談ください。
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