親権とは?|監護権との違い・変更手続きやポイントを弁護士が解説
この記事でわかること
- 親権を持つ意味
- 親権と監護権との違い
- 親権の決定基準
- 親権を取得するためのポイント
目次
親権とは
親権とは、簡単に言うと、未成年の子どもを保護・養育し、子どもの財産を代わりに管理する権利のことを言います。
より具体的に言うと、親権には次の3つがあります。
子どもの身のまわりの世話や、しつけ、教育をすること。
子ども名義の預貯金などの財産を管理すること。
子どもが何らかの契約の当事者となる場合、子を代理して契約を締結すること。
親権者について
親権者とは、上記の権利を有する者を言います。
親権を持つ意味
結婚している間、子供は父母の共同で親権をもっています。
しかし、離婚する際、日本では父母のいずれか一方を親権者として指定しなければなりません。
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
(以下は省略)
引用元:民法|電子政府の窓口
これは、離婚して親権者となれば、上記の①監護権、②財産管理権、③法定代理権を独占できるということを意味します。
したがって、親権者となるか否かは極めて大きな意味を持ちます。
親権と監護権の違い
上記のとおり、監護権(かんごけん)とは、子どもの身のまわりの世話や、しつけ、教育をすることであり、簡単に言うと「子供と一緒に生活できる権利」です。
そして、親権は、監護権を包摂する権利であり、その他にも財産管理権と法定代理権も含みます。
すなわち、下図のとおり、監護権は親権の一部となります。
監護権を分けることができる?
例えば、夫婦双方が親権を譲らない場合などに、親権者と監護者に分けて(これを「監護権の分属」といいます。)、それぞれが部分的に子供の責任を負うということができます。
親権者を父親と定め、監護者を母親と定めた場合、子どもは戸籍上父親の戸籍に残りますが、一方で、実際に引き取って子どもの面倒をみるのは母親ということになります。
ただし、このような監護権の分属は、父母双方が了承した場合には可能ですが、現実的はそのようなケースは稀です。
離婚の場面において、ほとんどの方が監護権を含めたすべての親権を希望するからです。
また、多くの方にとって、親権で重要なのは、「子供と一緒に生活すること」、すなわち、監護権です。
したがって、「監護権を相手に譲り、その他の権利をもらっても意味がない」と考える方が多いです。
このような理由から、監護権を分属する事案は決して多くありません。
親権者と保護者の違い
「保護者」(ほごしゃ)という言葉は、日常的に使われており、どちらかというと、親権者よりも使う頻度は高いと思われます。
しかし、実は保護者は家族関係についての法律である民法の中には出てきません。
そのため、正確な定義はできませんが、「特定の個人を保護している者」という程度の理解で良いかと考えられます。
例えば、親権者、後見人、監護者、児童福祉施設の長などが保護者になり得ます。
親権はいつまで認められる?
親権は子供が成人するまでの間認められます。
これに対して、保護者の場合は未成年の間に限定されません。
もちろん、親権者でなくなれば、通常は保護者でもなくなりますが、その後に子供の成年後後見人に就任すれば、保護者となります。
以上をまとめると、下表のとおりとなります。
▶︎ 親権者 | |
---|---|
内容 | 監護権、財産管理権、法定代理権を行使できる者 |
期限 | 子供が成人するまで |
▶︎ 監護権者 | |
---|---|
内容 | 監護権を行使できる者 |
期限 | 子供が成人するまで |
▶︎ 保護者 | |
---|---|
内容 | 賃貸借契約を解除 |
期限 | なし |
親権を父親が取得するケースとは?
離婚の際、親権者を決めなければなりません。
子供が小さい場合は、父母が話し合って母親を親権に指定することが多いのですが、父親が親権を希望するケースもあります。
このように親権でお互いが譲らない場合、最終的には裁判所に親権者を決めてもらうこととなります。
それでは裁判所がどのようにして親権を判断するのでしょうか。
裁判所の親権の決定方法
一般に、親権者の指定において、考慮すべき具体的事情としては、父母の側では、監護に対する意欲と能力、健康状態、経済的・精神的家庭環境、居住・教育環境、子に対する愛情の程度、実家の資産、親族・有人島の援助の可能性などであり、子どもの側では、年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況、子ども本人の意向などがあげられています。
そして、実際の裁判では、次の諸原則が重視されて親権者が指定されています。
①監護の継続性(現状尊重)の原則
継続性の原則とは、子どもの現在の生活環境に特段問題がないのであれば、現状を尊重し、生活環境を急激に変化させないようにしようという考えです。
この原則は、現実に形成されている親子の心理的な結びつきを重視するもので、子どもの養育者を変更することは、子どもへの心理的不安定をもたらす危険があるということを根拠においています。
②母性優先の原則
母性優先の原則とは、これまで主として監護してきた方(母親的な役割を果たしてきた方)が親権者として優位性があるという考え方です。
したがって、父親であっても、これまで育児に積極的に関わっていたのであれば、親権者となれるチャンスがあるのです。
この原則が「女性」という言葉ではなく「母性」という言葉が使われているのは性別が関係ないということを表しています。
主たる監護者であったか否かについては、例えば、これまで子どもの食事を作ったり、食べさせていたのは誰か、入浴はどちらが行なっていたか、遊んでいたのは誰か、学校の送り迎えは誰が行なっていたか、寝かしつけていたのは誰か、家庭内でのしつけを行なっていたのは誰かなどを総合的に考慮し、判断します。
日本では通常、父親がメインで働いて収入を得る役割で、母親は子どもが小さいうちは専業主婦として、若しくは短時間労働程度で子育ての役割に徹しています。
したがって、多くの場合、女性が有利となります。
しかし、最近は父母が同じくらい働き、若しくは母親がメインで働く家庭も増えていますので、父親が主たる監護者である場合も見られます。
③子どもの意志尊重の原則
子どもが15歳以上の場合、裁判所は、親権者を指定するにあたって、子ども本人の意向を聴かなければなりません。
したがって、当然、子どもの意向は尊重されなければなりません。
また、子どもが15歳未満の場合でも、裁判実務は子どもの意向を重視しています。
もっとも、子どもが幼い場合、多くの事案では子どもは父母の両方が大好きであり、どっちについて行きたいかを選ぶことなどできません。
仮に、どちらかを選べたとしても、幼い子どもは身近にいる者の影響を受けやすく、また、言葉と真意が一致していない場合もあります。
そこで、幼い子どもの親権をめぐる紛争では、家庭裁判所調査官が子どもと面談する等して、子どもの発達段階に応じた評価を行なっています。
この調査官という人たちは、家庭裁判所の職員であり、児童心理等の専門家です。
④きょうだい(兄弟姉妹)不分離の原則
きょうだいはできるだけ分離すべきではないという原則です。
これはきょうだいは、一緒に生活した方が情緒が安定する、人格形成にも役立つ、といったことを根拠とする考えです。
しかし、この原則は形式的に適用すべきではないと考えられます。
例えば、ある夫婦が2年前から別居しており、兄(7歳)は父親と同居し、父親が主として監護しており、弟(2歳)はまだ乳幼児であるため、母と同居し、母が主として監護しているケースを想定しましょう。
この場合、弟は乳幼児であるから母が親権者としてふさわしいと判断した場合、兄についても、この原則を重視すると、母が親権者と判断されます。
もっとも、兄と弟の同居期間が短いような場合、そもそもきょうだいの結びつきが弱いといえます。
そのような場合、子どもの意向を重視して、兄の親権を父親に認めることも十分考えられます。
⑤有責性が考慮されるか?
例えば、妻の不貞行為が原因で離婚しなければならなくなった場合、妻を親権者としてよいかという問題があります。
このような場合に妻が親権者となることに対して、夫としては、裏切られたあげく、子どもまで取られてしまうという結果に納得できるものではありません。
しかしながら、裁判実務上、相手の有責性と親権者の判断は別物と考えられています。
したがって、妻の不貞行為を理由に親権者としてふさわしくないという主張は基本的には認められません。
もっとも、不貞行為が子どもの監護にも害をもたらしていたような場合は、そのことをもって親権者としてふさわしくないという主張は可能です。
例えば、妻が育児を放棄して、不貞行為の相手と合うなどしていたような場合です。
親権者の変更
離婚の際に、一度親権者を指定すると、基本的に親権者は固定されたままです。
もし、途中で親権者を変更したいと思っても、父母の協議のみで親権者を変更することはできません。
親権者を変更する場合、裁判所での手続きが必要となります。
親権の争いがある場合の3つのポイント
親権を取得するために重要なポイントをご紹介します。
①親権を取得できるかを見極める
まず、現状が親権を取得できる状況か否かを正確に見極めなければなりません。
親権を取得できる状況であれば相手と争っても安心です。
もし、親権を取得できない状況の場合、打開策の有無と内容を検討しなければなりません。
親権を取得できるか否かについては、親権についての専門的知識と豊富な経験が必要となります。
そのため、離婚問題に詳しい専門家へのご相談をお勧めいたします。
②子供の監護を継続する
親権者の判断において、裁判所は上記のとおり、子供の監護実績を重視します。
そのため、親権の取得を希望されるのであれば、子供と離れて暮らすことは避けるべきです。
例えば、相手が子供を連れて一方的に別居した場合、これを放置しておくと圧倒的に不利になります。
そのため、子供の引き渡しを求める手続きを申し立てるなどして、対応しなければなりません。
③適切な手続きを選択する
親権を取得するための手続きとしては、協議、離婚調停、離婚訴訟があります。
また、その他に、子の監護者指定の審判やその保全処分もあります。
この手続は、親権争いの前哨戦的な位置づけですが、親権を獲得するためにはとても重要なものとなります。
さらに、子供の状況によっては人身保護請求を検討する事案もあります。
いずれの手続きを使うかは、事案に応じて的確に判断しなければなりません。
例えば、相手が子供と別居している状況で、親権を希望する場合、のんびりと協議や調停を行っている場合では有りません。
このような場合、子の引き渡しと監護者指定の審判を申し立て、さらにその保全処分を検討することとなります。
まとめ以上、親権について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。
親権を取得するということは、①監護権、②財産管理権、③法定代理権を独占できることを意味します。
したがって、親権者となるか否かは極めて大きな意味を持ちます。
しかし、親権者となることができるか否かを適切に判断するためには、親権に関する専門知識が必要です。
また、親権を取得することが難しい事案では、親権獲得のための戦略を練って、的確に実行しなければなりません。
これらの判断や手続きは、親権についての豊富な経験とノウハウが重要となります。
そのため、親権については、離婚題を専門とする弁護士への早い段階でのご相談をお勧めいたします。
この記事が親権の問題でお困りの方にとってお役に立てば幸いです。